大林組の有報分析 要点: 大林組は売上高2兆6,201億円・連結従業員17,305名のスーパーゼネコン。営業利益1,434億円(前期比80.7%増)で収益力が急回復し、ROEは7.0%から12.6%に改善。海外建築・海外土木の合計売上は7,575億円(構成比28.9%)で、MWH社取得により海外土木が前期比124.2%増と急成長。不動産事業は利益率22.08%。R&D費163億円で施工自動化・カーボンニュートラル技術を推進し、新領域として宇宙・データセンター・グリーンエネルギーにも進出。平均年収約1,140万円(2025年3月期有報)。
この記事のデータは大林組の有価証券報告書(2025年3月期)に基づいています。 有報の読み方がわからない方は有価証券報告書の読み方完全ガイドをご覧ください。
この記事でわかること
大林組(1802)の有価証券報告書(2025年3月期)を分析し、企業研究で知るべき「この会社が賭けているもの」を明らかにします。
| この会社が賭けているもの | 有報の根拠 |
|---|---|
| 建設事業の収益力回復 | 営業利益1,434億円(前期比80.7%増)、国内建築の利益率が2.12%→4.69%に改善、海外土木が赤字から黒字転換 |
| 海外建設事業の拡大 | 海外建築+海外土木の合計売上7,575億円(構成比28.9%)、MWH社取得で海外土木が前期比124.2%増 |
| 新領域ビジネスへの多角化 | 不動産事業の利益率22.08%、データセンター投資103億円、建設DX・宇宙・グリーンエネルギー等5注力領域を設定 |
大林組のビジネスの実態|何で稼いでいるのか
大林組の有報で最も注目すべきは、前期比で営業利益が80.7%増と急回復している点です。「スーパーゼネコン=安定的に稼ぐ会社」というイメージがありますが、実際には3期前に純利益が391億円に落ち込み、そこから回復途上にある企業です。当期にようやく4期前の水準を大きく超える純利益1,460億円を記録しました(2025年3月期有報)。
5期業績推移
| 指標 | 4期前 | 3期前 | 2期前 | 前期 | 当期(2025年3月期) |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1兆7,668億円 | 1兆9,228億円 | 1兆9,838億円 | 2兆3,251億円 | 2兆6,201億円 |
| 純利益 | 987億円 | 391億円 | 776億円 | 750億円 | 1,460億円 |
| EPS | 137.64円 | 54.55円 | 108.34円 | 104.69円 | 203.88円 |
| 自己資本比率 | 41.0% | 39.5% | 38.2% | 38.1% | 38.1% |
| ROE | 11.3% | 4.1% | 8.0% | 7.0% | 12.6% |
| 営業CF | 248億円 | 696億円 | 2,284億円 | 503億円 | 856億円 |
出典: 2025年3月期有報「主要な経営指標等の推移」
5年間で売上は48.3%成長(1兆7,668億円から2兆6,201億円)。しかし純利益は3期前に391億円まで落ち込み、ROEも4.1%に低下した時期があります。当期はそこから急回復し、純利益1,460億円・ROE12.6%を達成。この回復の中身をセグメント別に見ると、経営の本気度が見えてきます。
セグメント別利益構造
| セグメント | 外部売上 | セグメント利益 | 利益率 | 前期利益 |
|---|---|---|---|---|
| 国内建築事業 | 1兆3,371億円 | 627億円 | 4.69% | 268億円 |
| 海外建築事業 | 4,987億円 | 132億円 | 2.67% | 127億円 |
| 国内土木事業 | 4,022億円 | 404億円 | 10.05% | 262億円 |
| 海外土木事業 | 2,586億円 | 82億円 | 3.20% | △37億円 |
| 不動産事業 | 729億円 | 161億円 | 22.08% | 172億円 |
| その他 | 502億円 | 21億円 | — | 13億円 |
出典: 2025年3月期有報「セグメント情報」
国内建築事業が売上の51.0%を占める最大セグメントですが、利益率は4.69%と薄利です。一方で不動産事業は売上構成比わずか2.8%ながら利益率22.08%で、少ない売上から効率的に利益を生み出しています。国内土木事業は利益率10.05%で安定的に高収益。海外土木事業は前期の赤字(△37億円)から82億円の利益に黒字転換しており、MWH社取得の効果が表れています。
鹿島建設や大成建設、清水建設と同じスーパーゼネコンですが、大林組は5つのセグメント(国内建築・海外建築・国内土木・海外土木・不動産)に分かれており、海外事業を建築と土木に分けて開示している点が特徴です。大成建設は土木事業が利益の約7割を占める構造ですが、大林組は海外建設+不動産の多角化で収益基盤を広げています。セグメント情報の読み方を理解すると、各社の収益構造の違いがより鮮明に見えます。
大林組は何に賭けているのか|投資と研究開発の方向性
大林組は「大林グループ中期経営計画2022追補」で3つの基本戦略を掲げています。建設事業の基盤強化と深化、技術とビジネスのイノベーション、事業ポートフォリオの拡充。設備投資額の読み方で解説しているとおり、設備投資495億円とR&D費163億円の使い道から、経営の本気度を読み解きます(2025年3月期有報)。
賭け1: 建設事業の収益力回復|営業利益80.7%増の中身
営業利益は793億円から1,434億円へ80.7%増。この急回復を牽引したのは国内建築事業です。利益が268億円から627億円へ133.6%増と倍増以上に跳ね上がりました。利益率も前期の2.12%から4.69%に改善しています(2025年3月期有報)。
国内土木事業も利益262億円から404億円へ54.2%増。インフラ更新需要を取り込み、利益率10.05%と全建設セグメントで最も高い収益性を維持しています。海外土木事業は前期の37億円の赤字から82億円の利益へ黒字転換。全セグメントで利益が前期を上回る結果です。
賭け2: 海外建設事業の拡大|MWH社取得と北米半世紀の実績
海外建築事業(4,987億円)と海外土木事業(2,586億円)の合計は7,575億円で、売上構成比28.9%に達します。特に海外土木は前期の1,153億円から2,586億円へ124.2%増と急成長しました。2023年12月に取得したMWH社の業績貢献が大きい構造です(2025年3月期有報)。
北米では半世紀以上の事業基盤を活用し、M&Aによる事業拡大を推進。東南アジアではシンガポール・タイ等でローカル人材の経営幹部登用を進めています。2024年4月にはシンガポールに新研究開発拠点を開設。開発事業でもロンドン・バンコクでのグローバル展開を推進しています。
ただし課題も明確です。海外建築の利益率は2.67%、海外土木は3.20%と、国内土木の10.05%に比べて薄利構造が続いています。規模拡大と利益率改善を両立できるかが今後の焦点です。
賭け3: 新領域ビジネスへの多角化|5つの注力領域
大林組が建設以外で注力しているのは5つの領域です。建設DX、都市プラットフォーム、アグリ&バイオ、グリーンエネルギー、宇宙。有報にはこの5領域が明記されています(2025年3月期有報)。
不動産事業は売上729億円・利益率22.08%の高収益事業です。東京・大阪都心部の大型オフィスを主軸に、ZEB等の環境配慮型ビルや物流施設にも投資。設備投資495億円の内訳を見ると、不動産事業に203億円、都市型データセンター事業に103億円を投下。翌期の設備投資計画は820億円で、不動産事業に490億円を投下する方針です。当期の2.4倍に拡大する計画であり、不動産への本気度が数字に表れています(2025年3月期有報)。
グリーンエネルギー事業では、国内で太陽光・風力・バイオマス・地熱発電の開発・運営を手がけ、海外ではニュージーランドで地熱・小水力発電所を展開。水素サプライチェーンの構築にも取り組んでいます。スマートシティ「みんまちプロジェクト」を展開し、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンにも導入しています。
R&D費163億円の使途
R&D費163億円の具体的な成果が有報に記載されています(2025年3月期有報「研究開発活動」)。
施工自動化では、施工計画から品質管理までを自動化する「統合施工管理システム」の実証に成功し、施工計画業務を約88%削減可能。AI配筋自動検査システムは検査業務の作業時間を約36%縮減。自動火薬装填システムを慶應義塾大学と共同開発し、トンネル切羽発破に成功。特定メーカーに依存しない後付け可能なホイールローダ用自動運転装置も開発しています。
カーボンニュートラル技術では、木材を利用した鋼管柱の耐火被覆工法「O・Mega Wood Xコラム」で90分耐火の大臣認定を取得(CO2固定化効果は従来工法の約5倍)。国内初の建物解体後の構造部材リユースで約49%のCO2排出量削減を見込み、「カーボンデザイナー E-CO BUILDER」で建物計画の初期段階からCO2削減効果を検証可能にしています。
3Dプリンター活用では、擁壁工事にプレキャスト部材を適用し、約30%の工程短縮と約5%のコスト削減を実現しています。
大林組が自ら語るリスクと課題|PRでは絶対に出ない情報
有報の「事業等のリスク」には、就活サイトや企業PRでは出てこない情報が記載されています(2025年3月期有報)。
| リスク | 有報の記載要旨 | 就活生への影響 |
|---|---|---|
| 労務単価・資材価格の変動 | 労務単価の高騰や技能労働者の不足、資材の急激な価格高騰や調達難による利益率低下や工期遅延の可能性 | 国内建築4.69%の薄利構造でコスト吸収余地が小さく、現場ではコスト圧力が常に存在 |
| 重大事故リスク | 2023年9月の東京駅前八重洲一丁目東B地区再開発工事での鉄骨倒壊事故(6名被災、2名死亡)を踏まえ安全文化の変革に取り組む | 「9.19安全の日」制定。安全管理は建設業の根幹であり、現場配属時の最重要業務 |
| 海外事業リスク | アジア・米国等でのテロ・紛争、経済情勢変動、為替レート急変動による業績への影響 | 海外売上28.9%の規模で為替・地政学リスクが業績に影響。海外赴任時はリスクと隣り合わせ |
出典: 2025年3月期有報「事業等のリスク」
特に注目すべきは重大事故リスクです。有報に東京駅前再開発工事での鉄骨倒壊事故(6名被災、2名死亡)を具体的に記載し、「9.19安全の日」を制定して安全文化の変革を推進していると明記しています。過去の事故を隠さず開示し、組織的な対策を講じている姿勢は、安全管理への企業姿勢を見極める上で重要な情報です。
あなたのキャリアとマッチするか
従業員データ
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 連結従業員数 | 17,305名 |
| 単体従業員数 | 9,386名 |
| 平均年齢 | 42.4歳 |
| 平均勤続年数 | 16.4年 |
| 平均年間給与 | 約1,140万円 |
出典: 2025年3月期有報「従業員の状況」
有報の給与データの読み方を踏まえると、平均年収約1,140万円はスーパーゼネコンの中でも高い水準です。平均勤続年数16.4年は長期雇用が定着していることを示しています。有報には2025年4月に約5.5%の賃上げを実施したことも記載されており、処遇改善への姿勢が読み取れます。連結17,305名に対し単体9,386名で、グループ会社・海外子会社の人員が約46%を占めています。
鹿島建設(平均年収約1,185万円)と比較すると年収水準はやや下回りますが、大林組は新領域ビジネス(宇宙・アグリ&バイオ等)への進出やデータセンター投資103億円など、建設以外の事業多角化が進んでいる点が特徴です。
キャリアマッチ表
| マッチする人 | 理由 |
|---|---|
| 海外の大規模建設プロジェクトに携わりたい人 | 海外売上28.9%、北米で半世紀以上の実績、MWH社取得で拡大中 |
| 施工自動化・建設DXに関わりたい技術系志望者 | R&D費163億円、統合施工管理システム・AI配筋検査・自動運転建機を開発中 |
| 不動産・データセンターなど建設以外の領域に関心がある人 | 不動産事業の利益率22.08%、データセンターに103億円投資 |
| グリーンエネルギー・脱炭素技術に関心がある人 | 太陽光・風力・地熱・水素サプライチェーン、CO2削減建材を展開 |
| 安定した報酬と長期キャリアを重視する人 | 平均年収約1,140万円、平均勤続16.4年、5.5%賃上げ実施 |
| マッチしにくい人 | 理由 |
|---|---|
| 短期間で事業を立ち上げるスピード感を求める人 | 建設プロジェクトは数年単位、不動産開発も長期サイクル |
| 純粋なIT・ソフトウェアキャリアを志向する人 | 建設DXは推進中だが、あくまで建設業の効率化が主目的 |
| 海外で高収益事業に携わりたい人 | 海外建築2.67%・海外土木3.20%と薄利構造が続く |
| 建設現場での業務を避けたい人 | 技術系は現場経験がキャリアの基本ルート |
大林組の投資方向性から考える学習テーマ
大林組の有報が示す投資の方向性から、選考前に理解を深めておくと差がつくテーマを整理します。
| 学習テーマ | 投資の方向性との関連 | 学習する理由 |
|---|---|---|
| 海外建設市場とM&A戦略 | MWH社取得で海外土木が124.2%増、海外売上構成比28.9% | 北米・東南アジアでの事業拡大がグループ成長の柱。M&A後の統合効果や海外市場動向を語れると企業理解の深さを示せる |
| 施工自動化・建設DX技術 | R&D費163億円、統合施工管理システムで施工計画業務88%削減 | 建設業の生産性向上が経営課題の核心。AI配筋検査・自動運転建機・3Dプリンター等の具体技術を知ると技術系面接で有効 |
| 不動産・データセンター事業 | 不動産利益率22.08%、翌期投資490億円、データセンター投資103億円 | 建設の請負だけでなくストック型収益への転換を志向。設備投資額の読み方で投資先から経営意図を読む方法を学べる |
| カーボンニュートラル・グリーンエネルギー | 太陽光・風力・地熱・水素サプライチェーン、CO2削減建材の開発 | SBT認定取得でScope1+2を46.2%削減する目標を掲げており、脱炭素が事業戦略と直結している |
| 企業研究の進め方 | 有報の5期推移・セグメント・設備投資・リスクの読み方全般 | 大林組に限らず、スーパーゼネコン各社(鹿島建設・大成建設)との比較に活用できる |
面接で使える有報ポイント
面接での有報活用法を参考に、大林組の有報データを面接で活かすポイントを紹介します。
NG: 「大林組はスーパーゼネコンで安定しているので志望しました」
OK: 「有報で営業利益が前期比80.7%増の1,434億円に回復し、MWH社取得で海外土木が124.2%成長していることを確認しました。建設事業の収益力回復と海外拡大を同時に進める経営の意志に共感し、特に施工自動化技術(施工計画業務88%削減の統合施工管理システム)の成果に関心があります」
有報の数値を具体的に引用し、「安定」ではなく「収益力回復」「海外拡大」「技術革新」の視点で語ることが差別化のポイントです。
逆質問例
-
「海外土木事業が前期の赤字から82億円の利益に黒字転換しましたが、MWH社取得の具体的な効果と、今後の海外土木の成長戦略を教えてください」(2025年3月期有報「セグメント情報」)
-
「新領域ビジネスとして建設DX・宇宙・アグリ&バイオなど5領域を設定されていますが、若手社員がこれらの新領域に関わる機会はどの程度ありますか」(2025年3月期有報「経営方針」)
-
「翌期の設備投資計画820億円のうち不動産事業に490億円を計画されていますが、不動産ポートフォリオの拡大方針と期待するリターンについて教えてください」(2025年3月期有報「設備の状況」)
まとめ
大林組の有報が示すのは、収益力の急回復と事業多角化を同時に進めるスーパーゼネコンの姿です。営業利益80.7%増で利益体質が改善し、海外売上28.9%・MWH社取得でグローバル展開を加速。不動産事業は利益率22.08%で翌期490億円の投資を計画し、データセンター・グリーンエネルギー・宇宙など建設の枠を超えた5つの新領域にも進出しています。
一方で、海外事業の利益率(建築2.67%・土木3.20%)は改善途上であり、東京駅前再開発工事での重大事故(6名被災、2名死亡)を踏まえた安全文化の変革、労務単価・資材価格の変動リスクは、有報だからこそ見える課題です。R&D費163億円で施工計画業務88%削減の統合施工管理システムやAI配筋検査を実用化する技術力、5つの新領域のどこに自分が関わりたいか。その具体性が、大林組を志望する上での差別化になります。
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本記事のデータは有価証券報告書(2025年3月期・EDINET)に基づいています。企業の将来の業績を保証するものではなく、投資判断を目的としたものではありません。最新情報は企業の公式IR資料をご確認ください。