| この記事でわかること |
|---|
| 1. 海外従業員数を有報で直接検証できる企業は、ごく一部しかない |
| 2. 検証できた2社(NTTデータ・東京海上HD)の海外従業員比率の実データ |
| 3. 数値が取れない企業で「海外で働けるか」をどう見極めるか |
「海外で働きたい」という軸で企業研究をしていると、海外売上比率は出てくるのに「海外に何人の社員がいるか」がなかなか分からない、という壁にぶつかります。これは調べ方が悪いのではありません。海外従業員数を有価証券報告書で直接開示している企業自体が、ごく一部しかないのです。
この記事では、就活生がよく企業研究の対象にする主要11社の有報を実際に当たり、海外従業員数を「検証できた企業」と「検証できなかった企業」に分けて、それぞれで何が言えるのかを整理します。
海外売上比率の横断比較は海外売上高比率ランキングを参照してください。
「海外従業員比率ランキング」は有報では作れない
最初に結論です。この記事は当初「主要10社の海外従業員比率ランキング」として公開していましたが、ランキングは成立しないことが分かったため、構成を全面的に作り直しました。
理由は、海外従業員数(または地域別の従業員数)を有報で開示している企業が、調査対象11社中わずか2社しかなかったからです。
有報の「従業員の状況」には、セグメント別の従業員数が載っています。ただしこのセグメントが「事業別」(自動車事業・金融事業など)なのか「地域別」(日本・海外)なのかは企業によって違います。日本企業の多くは事業別で開示しているため、そこから海外従業員数を読み取ることはできません。
| 区分 | 企業数 | 内訳 |
|---|---|---|
| 海外従業員数を直接検証できた | 2社 | NTTデータグループ、東京海上HD |
| 検証できなかった | 9社 | トヨタ、ソニー、日立、村田製作所、味の素、三菱商事、キーエンス、任天堂、野村HD |
数値の優劣の話ではなく、有報の開示構造の問題です。だからこの記事は「ランキング」をやめ、「実データで何が言えるか」をそのまま示す形にしています。

海外従業員数が有報で読める2社|NTTデータと東京海上HD
調査対象の中で、海外従業員数を有報の「従業員の状況」から直接読み取れたのはこの2社です。
| 企業 | 連結従業員数 | 海外従業員数 | 海外従業員比率 | 開示の根拠 |
|---|---|---|---|---|
| NTTデータグループ | 197,777名 | 145,553名 | 73.6% | 報告セグメントが「日本/海外」の地域区分 |
| 東京海上ホールディングス | 51,436名 | 19,765名 | 38.4% | 報告セグメントの1つが「海外保険事業」 |
※各社有価証券報告書(2025年3月期)「従業員の状況」より。

NTTデータグループ|海外従業員73.6%、買収で人を取り込んだ会社
NTTデータグループの報告セグメントは「日本」と「海外」の2つです。従業員数も同じ区分で開示されているため、海外従業員数がそのまま読み取れます。
| セグメント | 従業員数 |
|---|---|
| 日本 | 48,828名 |
| 海外 | 145,553名 |
| その他 | 3,396名 |
| 合計(連結) | 197,777名 |
海外従業員比率は73.6%。連結従業員のおよそ4人に3人が海外セグメントに属しています。これは、2022年のNTT Ltd.統合をはじめとする海外企業の買収で、人員ごと取り込んできた結果です。
注目したいのは、海外従業員比率73.6%が海外売上比率59.2%を上回っている点です。人は海外に多いのに、1人あたりの売上単価は国内のほうが高い。NTTデータが課題として挙げる「海外営業利益率3.6%に対し国内10.6%」というねじれが、従業員データからも読み取れます。
グローバルIT統合プロジェクトやM&A後の組織統合(PMI)に関わりたい人 → NTTデータグループの有報分析
東京海上ホールディングス|海外保険事業に38.4%
東京海上HDの報告セグメントは「国内損害保険」「国内生命保険」「海外保険」「金融・その他」の4つ。このうち「海外保険」セグメントの従業員数が開示されています。
| セグメント | 従業員数 |
|---|---|
| 国内損害保険 | 20,083名 |
| 国内生命保険 | 2,163名 |
| 海外保険 | 19,765名 |
| 金融・その他 | 9,425名 |
| 合計(連結) | 51,436名 |
海外保険事業セグメントの従業員は19,765名で、連結の38.4%。フィラデルフィア・HCC・デルファイといった海外保険会社を買収して積み上げてきた人員です。ただし厳密には「海外保険事業セグメントに属する従業員」であり、勤務地ベースの海外従業員数と完全に一致するわけではない点には注意してください。
海外保険会社の買収・経営に関わりたい人 → 東京海上HDの有報分析
残り9社はなぜ海外従業員数が出ないのか
残りの9社は、有報から海外従業員数を読み取れません。実データとして取れるのは「連結従業員数」と「提出会社(単体)の従業員数」だけです。
| 企業 | 連結従業員数 | 単体従業員数 | 従業員のセグメント区分 |
|---|---|---|---|
| トヨタ自動車 | 383,853名 | 71,515名 | 事業別(自動車・金融・その他) |
| ソニーグループ | 112,300名 | 2,212名 | 事業別(ゲーム・音楽・映画ほか6区分) |
| 日立製作所 | 282,743名 | 25,892名 | 事業別(3区分) |
| 村田製作所 | 72,572名 | 10,865名 | 事業別(コンポーネントほか) |
| 味の素 | 34,860名 | 3,627名 | 事業別(調味料・食品ほか) |
| 三菱商事 | 62,062名 | 4,477名 | 事業別(8区分) |
| キーエンス | 12,261名 | 3,205名 | 単一セグメント |
| 任天堂 | 8,205名 | 2,962名 | 単一セグメント |
| 野村ホールディングス | 27,242名 | 177名 | セグメント別従業員数の開示なし |
※各社有価証券報告書(2025年3月期)「従業員の状況」より。
ここで陥りやすい誤解があります。「連結従業員数 − 単体従業員数 = 海外従業員数」と考えてしまうことです。これは間違いです。
連結従業員数から単体従業員数を引いた差は「子会社で働く従業員数」であって、その中には国内の子会社の従業員も含まれます。たとえばトヨタなら、連結383,853名から単体71,515名を引いた312,338名は「トヨタ自動車本体以外」というだけで、国内の販売子会社も海外の生産子会社もすべて混ざっています。海外従業員数の代わりにはならず、上限値にすらなりません。
このように、従業員のセグメント区分が「事業別」だと、有報からは地域別の人員配置が見えないのです。
海外売上比率と海外従業員比率のズレ
「海外で働けるか」を測るとき、海外売上比率を見る人は多いと思います。でも、海外売上比率と海外従業員比率は別物です。
両方の実データが取れる唯一の企業がNTTデータです。
| 指標 | NTTデータグループ |
|---|---|
| 海外売上比率 | 59.2% |
| 海外従業員比率 | 73.6% |
従業員比率のほうが14ポイント以上高い。これは「M&Aで海外企業を人員ごと買収した会社」の特徴です。買収で増えるのはまず人で、売上単価や利益率は後から付いてきます。
逆のパターンもあります。国内で開発・生産して海外で売る「輸出型」の企業は、海外売上比率は高くても人員は国内に残ります。「海外売上比率が高い=海外で働ける」とは限らないのです。
海外で働ける会社を有報で見極める読み方

海外従業員数が直接取れない企業がほとんど、という現実を踏まえて、それでも「海外で働けるか」を有報から見極める方法を整理します。
3つのグローバル化タイプで分類する
海外従業員数が取れなくても、海外売上比率や事業の性質から、企業のグローバル化パターンは3つに分けられます。
| タイプ | 特徴 | 代表企業(実データの裏付け) | 「海外で働く」の中身 |
|---|---|---|---|
| 輸出型 | 国内で開発・生産し、海外で販売 | 任天堂(海外売上76.4%)、キーエンス(同64.8%) | 国内から世界市場を相手にする働き方が中心 |
| M&A買収型 | 海外企業を人員ごと買収 | NTTデータ(海外従業員73.6%)、東京海上HD(海外保険38.4%) | 海外子会社のマネジメント・組織統合 |
| 現地生産・多地域分散型 | 拠点を世界に持ち地産地消 | トヨタ(海外売上83.9%)、ソニー(同82.7%) | 海外駐在・多国籍チーム協働の両方 |
※海外売上比率はEDINETの実データで検証済みの数値です。
有報のどこを見るか
| 見る場所 | 分かること |
|---|---|
| 「従業員の状況」のセグメント別従業員数 | セグメントが地域別なら海外従業員数が読める(NTTデータ・東京海上HDのケース) |
| セグメント情報の「地域に関する情報」 | 地域別の売上高・非流動資産。人員ではないが地域ごとの事業規模が分かる |
| セグメントの説明文 | 「主に海外ビジネスにおける〜」など、セグメントの地域性が言葉で書かれている |
| 海外売上比率 | 売上の地理的分布。人員とは別物だが、グローバル化タイプの判断材料になる |
面接で使うなら
数値を使うなら、実データが取れる企業に限定してください。取れない企業で「海外従業員比率○%」と言ってしまうと、根拠のない数字を語ることになります。
志望動機(NTTデータ・東京海上HDなど実データが取れる企業)
「御社の有報で、連結従業員の73.6%が海外セグメントに属していることを確認しました。M&Aで海外企業を組織ごと取り込んできた御社で、買収後の組織統合に関わりたいと考えています。」
逆質問(タイプ別の働き方を確認する)
「有報のセグメント情報から、御社は現地生産を世界に展開されていると理解しています。新卒が海外拠点で働く機会は、入社何年目くらいからありますか?」
数値が取れない企業では「セグメント構造」を切り口にする
海外従業員数が開示されていない企業でも、「従業員のセグメントが事業別になっているため、地域ごとの人員配置は有報からは読み取れませんでした。御社では海外拠点の人員規模はどの程度でしょうか」と聞けば、有報を読み込んだうえでの質問として成立します。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| ランキングは作れない | 海外従業員数を有報で直接検証できたのは調査対象11社中2社だけ |
| 連結−単体の罠 | その差は子会社従業員数で、国内子会社も含む。海外従業員数ではない |
| 売上と人員は別物 | NTTデータは海外従業員比率73.6%が海外売上比率59.2%を上回る。タイプで働き方が変わる |
「グローバル企業」かどうかは、一つの比率では決まりません。有報で取れる実データの範囲を正しく理解したうえで、海外売上比率・セグメント構造・事業の性質を組み合わせて、自分が求める「海外での働き方」に合う企業を見つけてください。
- 各社の有報分析: NTTデータグループ | 東京海上HD
- 海外売上比率の横断比較 → 海外売上高比率ランキング
- 人的資本データの読み方 → 有報の人的資本情報の読み方
本記事のデータは各社の有価証券報告書(EDINET)に基づいています。海外従業員数の定義・集計方法は企業により異なります。ランキングは参考情報であり、投資判断を目的としたものではありません。