富士通の有報分析 要点: 富士通は売上3.55兆円、利益の76%をITサービスで稼ぐテクノロジーカンパニー。Fujitsu Uvance(前年比31%増・4,828億円)とAI・量子コンピュータに重点投資。(2025年3月期有報に基づく)
この記事のデータは富士通の有価証券報告書(2025年3月期・IFRS)に基づいています。 有報の読み方がわからない方は有価証券報告書の読み方完全ガイドをご覧ください。
富士通は、売上高3兆5,501億円・連結従業員約11.3万人の総合ICT企業です。 「パソコンの富士通」というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし有報を読むと、利益の76%をITサービスで稼ぎ、AIと量子コンピュータに未来を賭ける「テクノロジーカンパニー」への転換が進んでいることがわかります。
富士通のビジネスの実態|何で稼いでいるのか
結論: 富士通の利益の76%はサービスソリューションが稼いでおり、「パソコン・ハードウェアの会社」は過去の話です。
| セグメント | 売上高 | 営業利益 | 利益率 | 利益構成比 |
|---|---|---|---|---|
| サービスソリューション | 2兆2,460億円 | 2,900億円 | 12.9% | 76% |
| ハードウェアソリューション | 1兆1,199億円 | 613億円 | 5.5% | 16% |
| ユビキタスソリューション | 2,517億円 | 314億円 | 12.5% | 8% |
出典: 富士通 有価証券報告書 2025年3月期 セグメント情報
サービスソリューションはITサービス(SI・コンサルティング・マネージドサービス)やクラウドサービスが中心で、売上総利益率は前年比1.9%改善しています(2025年3月期 経営方針)。富士通に入社する場合、このセグメントで働く可能性が最も高いということです。
ハードウェアソリューション(サーバ・ストレージ・ネットワーク機器)は利益率5.5%とサービスの半分以下です。さらに2024年4月にサーバ・ストレージ事業を担うエフサステクノロジーズを設立し分社化済みです。2025年7月にはネットワーク事業の1FINITYも設立予定です。つまり、ハードウェアは富士通本体から順次切り出される方向にあります。
ユビキタスソリューション(PC・モバイル端末)は利益率12.5%と意外と高いものの、売上は全体の7%に過ぎず、経営方針でもほぼ言及がありません。「PCメーカーとしての富士通」ではなく「ITサービス企業としての富士通」が実態です。
5年間の売上推移は3.59兆円から3.55兆円とほぼ横ばいですが、これは「停滞」ではなく「選択と集中」の結果です。デバイスソリューション(半導体等)を非継続事業に分類し、海外の採算性の低い事業を整理した上での売上維持は、事業の質的改善を意味しています。
富士通は何に賭けているのか|投資と研究開発の方向性
結論: 富士通はR&D費1,012億円・設備投資515億円を、Fujitsu Uvance・AI・量子コンピュータの3領域に集中させています。
有報の設備投資・R&D費の読み方を理解すると、企業が「未来の何にお金を使っているか」が見えてきます。富士通の投資には、3つの明確な「賭け」が読み取れます。
賭け1: Fujitsu Uvance|SIerからの脱皮
富士通の最大の賭けがFujitsu Uvanceです。社会課題解決型のDXサービスブランドとして、2024年度の売上は4,828億円、前年比31%増。当初計画の4,500億円を上回る成果です。
注目すべきは質的な変化です。Vertical領域(業界別課題解決)の売上構成比が32%から36%に拡大し、コンサルティングブランド「Uvance Wayfinders」が立ち上がりました。これにより商談の質が変化し、「お客様に言われた通りにシステムを作る」従来型SIから、「経営変革のアジェンダ策定から実装までリード」する商談が生まれています。
ただしFujitsu Uvanceの売上はサービスソリューション全体の21%であり、転換は道半ばです。残り79%の既存事業からの移行をどう進めるかが経営の最大のチャレンジです。
賭け2: AI|Takane・Kozuchi・AIエージェントの三層構造
| AI戦略の構成要素 | 内容 |
|---|---|
| Takane | Cohere Inc.と共同開発の企業向けLLM。世界最高の日本語性能 |
| Fujitsu Kozuchi | AIプラットフォーム。ナレッジグラフ拡張RAG、生成AI監査技術を統合 |
| Kozuchi AI Agent | AIエージェント事業。人と協調して自律的に業務を推進 |
| 偽情報対策 | 内閣府経済安全保障プログラムにプライム事業者として採択(事業規模60億円) |
出典: 富士通 有価証券報告書 2025年3月期 研究開発活動
テクノロジー戦略の重点5領域(Computing・AI・Network・Data & Security・Converging Technologies)の中で、AIを「中心に融合させる」と明言しています。「AIを研究する」だけでなく「企業の現場にAIを実装する」ところまで一貫して手がけます。これが富士通のAI戦略の最大の特徴です。
賭け3: 量子コンピューティングと次世代プロセッサ
256量子ビット機を開発済みで、2025年度Q1に企業・研究機関向け提供を開始予定です。2026年度には1,000量子ビット機を開発し、川崎市のFujitsu Technology Parkに設置する計画です(2025年3月期 研究開発活動)。産業技術総合研究所から超伝導ゲート型量子コンピュータを国内ベンダーとして初めて受注しました。大阪大学との「STARアーキテクチャ」やデルフト工科大学との共同研究も進めています。
次世代プロセッサ「FUJITSU-MONAKA」ではSuper Micro Computer・AMDとの戦略的協業を展開しています。「富岳」の系譜を持つHPC技術と合わせ、日本のコンピューティングの未来を担う研究開発が進行中です。
R&D費の内訳が示す優先順位
| 配分先 | 金額 | 構成比 | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| 全社・消去 | 424億円 | 41.9% | AI・量子・セキュリティ等の先端研究 |
| ハードウェアソリューション | 411億円 | 40.6% | FUJITSU-MONAKA・量子コンピュータ・Beyond5G |
| サービスソリューション | 177億円 | 17.5% | Fujitsu Uvance関連のデジタルサービス |
| 合計 | 1,012億円 | 100% | 売上比2.8% |
出典: 富士通 有価証券報告書 2025年3月期 研究開発活動
R&D費1,012億円(売上比2.8%)は絶対額として突出して大きくはありませんが、全社配賦の424億円がAI・量子コンピューティングなど事業横断的な先端研究に集中投下されている点が特徴です。R&D費ランキングで他社と比較すると、研究の「密度」の高さがわかります。
富士通が自ら語るリスクと課題|PRでは絶対に出ない情報
結論: 富士通はセキュリティインシデント・品質欠陥を「重点対策リスク」に掲げ、さらに従来型SI市場の縮小を自ら明記しています。
有報のリスク情報の読み方を理解すると、企業が自ら認識している経営上の脅威が見えてきます。富士通の有報で特に注目すべきは、「重点対策リスク」の記載です。
リスク1: セキュリティインシデントの再発
有報のリスク項目の冒頭に「昨今の当社及び当社グループ会社の度重なる情報セキュリティインシデント」と記載されています(2025年3月期 事業等のリスク)。企業のPR資料では絶対に出てこない、有報ならではの正直な情報です。
対策として「全社セキュリティリスクマネジメントスキーム」を構築し、ゼロトラスト前提のIT基盤整備、グローバルITアセット管理の一元化を進めていますが、「完全に防げるとは限りません」とも率直に認めています。ITサービス企業の信頼の根幹に関わるリスクであり、経営トップが直接関与する体制を敷いている点は注目に値します。
リスク2: 製品・サービスの品質欠陥
「重点対策リスク」の2番目として、過去のシステム品質問題を踏まえた全社統一品質保証体制「One Delivery」への変革を推進しています。社長直轄組織による開発プロセスの監視も実施しています。
リスク3: 従来型SI市場の縮小
経営方針で「従来型の基幹システムなどの既存IT市場は、引き続き緩やかに縮小していく」と明記されています。Fujitsu Uvanceの成長は目覚ましいものの、サービスソリューション全体に占める割合はまだ21%。既存のSI事業が縮小する中で、Uvanceがそれを補って余りある成長を達成できるかが、中期的な最大の課題です。
「旧来型SIerの安定」を期待して入社すると、数年後にビジネス環境が大きく変わっている可能性があります。逆に、変化を「チャンス」と捉えられる人にとっては、市場構造の転換期に最前線で経験を積める環境です。
あなたのキャリアとマッチするか
有報から読み取れる富士通の経営方針と投資の方向性を踏まえ、キャリアマッチの判断材料を整理します。
| 合いそうな人 | 合わないかもしれない人 |
|---|---|
| テクノロジーで社会課題を解決したいDXコンサルタント志向の人 | 安定した「SIerの定型業務」で手堅く働きたい人 |
| AI・生成AIを企業の現場に実装したいエンジニア | ハードウェア・ものづくりに富士通本体で専念したい人 |
| 量子コンピューティング・先端計算科学を志す理系学生 | ベンチャー的なスピード感を求める人 |
| 自律的にキャリアを設計し、スキルアップし続けたい人 | |
| レガシーシステムのモダナイゼーションで日本のDXを前に進めたい人 |
従業員データ: 平均年間給与929万円、平均年齢43.1歳、平均勤続年数18.2年(2025年3月期 単体)。2023〜2024年度で報酬を約20%引き上げ済みで、日本のIT企業としてトップクラスの水準です。
ジョブ型人事制度: 2026年4月から新卒入社者にもジョブ型人事制度を適用。ポスティング制度で年間約3,000人が社内公募により異動しており、「自分でキャリアを選び取る」文化への転換が進んでいます。入社時から「自分のジョブとキャリアは自分で選ぶ」覚悟が求められます。
ただし有報ではわからないこともあります。社風・職場の雰囲気・上司との関係性は有報の守備範囲外です。連結11.3万人の巨大組織であり、配属先によって働き方やカルチャーは大きく異なります。OB/OG訪問や口コミサイトを併用し、志望する部門の具体的な働き方を確認しましょう。
今から勉強しておくと強い分野
| 富士通の投資方針 | 今から学べること |
|---|---|
| Fujitsu Uvance(オンクラウドDXサービス) | クラウドネイティブ・コンテナ技術(Kubernetes等)の基礎。AWS/Azure等の入門知識 |
| AI戦略(Takane・Kozuchi・AIエージェント) | 生成AIの仕組み(Transformer・RAG・Fine-tuning)。企業へのAI活用事例の調査 |
| 量子コンピューティング | 「量子ビット」「量子ゲート」「量子誤り訂正」の基本概念。古典コンピュータとの違い |
| ジョブ型人事制度の新卒適用 | 「ジョブ型」と「メンバーシップ型」の違い。自分が志望する「ジョブ」の言語化 |
出典: 各項目の根拠は2025年3月期 経営方針・研究開発活動に基づく
面接で使える有報ポイント
結論: Fujitsu Uvanceの数字とセグメント構造を正確に語れれば、他の就活生と圧倒的な差がつきます。
有報の情報を面接でどう語るか
「御社の有報を拝見し、Fujitsu Uvanceの売上が4,828億円、前年比31%増であることに注目しました。さらにVertical領域の構成比が36%に拡大し、Uvance Wayfindersが立ち上がったことから、SIer型のビジネスから経営変革をリードするテクノロジーカンパニーへの転換が本格化していると感じています。」
「セグメント情報を分析し、サービスソリューションの利益が全体の76%を占めていることを確認しました。ハードウェアの分社化も進んでいて、御社は『ITサービス企業』そのものだと理解しています。」
「R&D活動では、Cohere Inc.との共同開発LLM『Takane』、256量子ビット機の開発と産総研からの初受注が印象的でした。AIを5つの重点技術領域の『中心に融合させる』という方針は、AIがサービス全体の差別化要素になるということだと理解しています。」
多くの就活生は「富士通=SIer大手」や「パソコンの会社」としか語れません。有報の具体的な数字を正確に引用し、構造転換の本質を語れれば、企業理解の深さが際立ちます。
逆質問で使えるネタ
- 「Fujitsu Uvanceの売上はサービスソリューション全体の21%ですが、残り79%の既存事業からの転換は現場レベルでどのように進んでいますか?」
- 「ジョブ型人事制度が新卒にも適用されますが、入社後にどのようにジョブレベルが決定され、初期キャリアではどんなスキルが評価されますか?」
- 「有報で『重点対策リスク』として情報セキュリティインシデントが挙げられていますが、この経験を経て社内の意識や体制はどう変化しましたか?」
いずれも有報に明記された事実に基づく質問であり、「この学生は本気で調べている」と面接官に伝わります。
有報データから逆算して今から学ぶべき分野
| 分野 | 根拠(有報) | 具体的アクション |
|---|---|---|
| DXコンサルティング | Fujitsu Uvanceが成長の中核(2025年3月期) | DX戦略・業務改革の入門書、ITストラテジスト試験の学習 |
| AI・量子コンピュータ | Takane・Kozuchi(AI)、256量子ビット機を開発中(2025年3月期) | Python/機械学習の基礎、量子計算の概念理解 |
| クラウド・インフラ技術 | SIerからテクノロジーカンパニーへ構造転換(2025年3月期) | AWS/Azure資格、Kubernetes入門 |
| 英語力 | 海外売上比率約40%、グローバル事業の拡大(2025年3月期) | TOEIC800点以上を目標に |
まとめ
富士通の有報からは、「パソコンの会社」とは全く異なる姿が見えてきます。利益の76%をITサービスで稼ぎ、Fujitsu Uvanceを成長エンジンにしています。AI・量子コンピュータの最前線で世界と競う「テクノロジーカンパニーへの脱皮」の途上にある会社です。
一方で、セキュリティインシデントの教訓を自ら率直に語り、従来型SI市場の縮小を明記する「有報の正直さ」も見逃せません。AI・DX投資ランキングで他のIT企業と比較すると、富士通の投資の方向性がより鮮明になります。
同じIT業界で活躍するNTTデータは、データセンター投資とグローバル統合に賭けています。一方、富士通はFujitsu Uvance(DXコンサルティング)とAI・量子コンピュータに賭けています。また日立製作所との比較では、ハードウェアの分社化という共通の方向性がありながら、注力領域の違いが見えてきます。「どの会社が自分に合うか」を判断する材料として、ぜひ複数の有報を横断的に読み比べてみてください。
本記事のデータは有価証券報告書(EDINET)に基づいています。投資判断を目的としたものではありません。