第一生命HDの有報分析 要点: 第一生命HDは保険料等収入約6.8兆円、総資産約69.6兆円の国内大手生命保険グループです。北米Protective Life、豪州TALなど海外保険事業の利益構成比40%を目指し、ベネフィット・ワン買収で非保険領域にも進出しています。当期純利益4,296億円はROE11.7%と5期間で最高水準です。(2025年3月期有報に基づく)
| この会社が賭けているもの |
|---|
| 1. 海外保険事業の拡大(利益構成比40%目標) |
| 2. ベネフィット・ワンを核とした保険サービス業への変革 |
| 3. 資本循環経営と市場リスク削減 |
この記事のデータは第一生命ホールディングスの有価証券報告書(2025年3月期)に基づいています。 有報の読み方がわからない方は有価証券報告書の読み方完全ガイドをご覧ください。
「生命保険の会社=保険の営業」と思っている就活生は多いですが、有報を読むとまったく異なる姿が見えてきます。第一生命HDの本質は、総資産約69.6兆円を運用する国内最大級の機関投資家です。さらに2024年にはベネフィット・ワン(福利厚生プラットフォーム)を買収しました。保険を超えた「保険サービス業」への変革を宣言しています。
第一生命のビジネスの実態|何で稼いでいるのか
生命保険のビジネスモデルとは、契約者から保険料を受け取り、それを債券・株式・不動産などで運用し、将来の保険金支払いに備える仕組みです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 保険料の収受 | 契約者から保険料を受け取る |
| 2. 資産運用 | 保険料を国債・株式・不動産等で運用し、運用収益を得る |
| 3. 保険金の支払い | 死亡・入院等の事由発生時に支払い |
| 4. 三利源による利益 | 利差益(運用収益)、費差益(経費節約)、死差益(支払い減少) |
就活ポイント: 生保は「利差益」「費差益」「死差益」の三つから利益が生まれます。特に資産運用の巧拙が業績を大きく左右するため、「保険の営業会社」ではなく「金融機関」として理解するのが出発点です。
セグメント構成
第一生命HDは「国内保険事業」「海外保険事業」「その他事業」の3セグメントで構成されています。
| セグメント | 経常収益 | セグメント利益 | 利益構成比 |
|---|---|---|---|
| 国内保険事業 | 8兆838億円 | 5,845億円 | 約59% |
| 海外保険事業 | 3兆6,690億円 | 1,831億円 | 約19% |
| その他事業 | 3,305億円 | 2,210億円 | 約22% |
出典: 2025年3月期有報 セグメント情報。経常収益はセグメント間取引含む計。利益構成比は調整前セグメント利益ベースで筆者算出
注目すべきは「その他事業」の利益が海外保険事業を上回っている点です。これは2024年のベネフィット・ワン買収や関連会社からの配当が反映されたものであり、第一生命が保険以外の収益源を育てていることがわかります。
財務ハイライト
| 指標 | 当期(2025年3月期) | 前期 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 保険料等収入 | 6兆7,959億円 | 7兆5,263億円 | 連結の保険料等収入 |
| 当期純利益 | 4,296億円 | 3,207億円 | 5期間で最高水準。前期比+34% |
| 総資産 | 約69.6兆円 | 約67.5兆円 | 国の一般会計予算に匹敵する規模 |
| ROE | 11.7% | 9.8% | 想定資本コスト9%を上回る |
| EPS | 115.95円 | 82.42円 | 1株当たり利益。当期は5期間で最高 |
出典: 2025年3月期有報 主要な経営指標等の推移
当期純利益4,296億円は5期間で最高です。2期前(2023年3月期)には市場環境の悪化で1,737億円まで落ち込みましたが、金利上昇による運用環境の改善と海外事業の成長で回復しています。
東京海上の有報分析と比較すると、同じ「保険会社」でも生保(長期契約×資産運用)と損保(短期契約×保険引受)では事業モデルが根本的に異なることがわかります。
第一生命は何に賭けているのか|投資と研究開発の方向性
有報から読み取れる第一生命HDの3つの「賭け」を解説します。
海外保険事業|利益構成比40%への挑戦
第一生命HDが最も大きく賭けているのが海外保険事業の拡大です。中期経営計画では2027年3月期に海外生保事業からの利益貢献比率40%を目標に掲げています(2025年3月期有報 経営方針)。
| 海外子会社 | 地域 | 直近の動き(2025年3月期有報) |
|---|---|---|
| Protective Life | 北米 | ShelterPoint Groupを買収し団体保険に進出。リテール事業と買収事業の両輪で拡大 |
| TAL | 豪州 | 大型団体保険を新規獲得。保障性市場で業界首位 |
| Dai-ichi Life Vietnam | ベトナム | 新契約シェア(初年度保険料ベース)が民間生保トップ |
地域別の経常収益を見ると、日本5兆7,830億円に対して米国2兆2,049億円、その他1兆8,854億円です。海外の経常収益は合計で約4.1兆円に達しており、国内の少子高齢化リスクを海外成長で補完する姿が鮮明です。
海外保険事業ののれん残高は1,296億円(前期1,009億円から増加)であり、ShelterPoint買収の影響が反映されています。有報では引き続きM&Aを成長手段として位置づけています。海外売上高比率ランキングで他社との比較もできます。
ベネフィット・ワン買収|保険を超えた変革
2024年にベネフィット・ワンの買収を完了したことは、第一生命の戦略転換を象徴する動きです。ベネフィット・ワンが運営する「ベネフィット・ステーション」は法人向け福利厚生プラットフォームです。会員数は初めて1,000万人を突破しました(2025年3月期有報)。
有報の経営方針では「生命保険業という枠を超えた保険サービス業への変革」を宣言しています(2025年3月期有報 経営方針)。第一生命の営業チャネルを通じた法人への提案活動が開始されており、保険×非保険のエコシステム構築が進んでいます。のれん残高は「その他事業」で1,855億円と新たに計上されました。
資本循環経営|リスクプロファイルの変革
第一生命HDは「資本循環経営」と呼ぶ財務戦略を推進しています。具体的には、第一生命が保有する国内株式を3年間で1.2兆円削減する計画を中期経営計画に織り込み(2025年3月期有報 経営方針)、株式リスクから保険リスク中心のリスクプロファイルへのシフトを図っています。
| 指標 | 実績 |
|---|---|
| ESR(経済価値ベース資本充足率) | 210%(ターゲット170-200%) |
| 修正ROE | 10%超(想定資本コスト9%を上回る) |
| グループ会社からの配当見通し | 約3,400億円 |
出典: 2025年3月期有報 経営方針・資本政策
設備投資は合計1,712億円で、内訳は国内保険事業1,488億円(87%)、海外保険事業214億円(12%)です。国内保険事業の設備投資は投資用不動産の新設・建替やシステム開発が中心です。
さらに、2024年8月にマイクロソフトとの戦略的グローバルパートナーシップを締結し(2025年3月期有報)、Azure基盤のクラウド環境構築やAI・データ分析技術の活用を進めています。IT・DX人材への投資も強化中です。
第一生命が自ら語るリスクと課題|PRでは絶対に出ない情報
有報の「事業等のリスク」から、就活生が注目すべきポイントを選別します。法的定型文を除いた、本当に経営に影響するリスクです。
| リスク項目 | 内容 | 就活での読み方 |
|---|---|---|
| 金利変動リスク | 日銀が2度利上げ。長期金利1.5%超に。金利上昇で新規運用は有利になるが保有国債の時価が下落 | ALM(資産負債管理)の重要性が増大。リスク管理の専門人材の需要が高い |
| 個人情報漏洩・不正行為リスク | 2024年8月に代理店出向者の個人情報漏洩が判明。過去には金銭不正取得事案も複数 | コンプライアンス強化は組織的課題。ガバナンス改革が進行中 |
| 国内市場の縮小 | 少子高齢化で生保需要が構造的に減少。営業職の採用環境も熾烈化 | 国内だけに依存するキャリアパスにはリスク。海外・DX・新規事業への人材シフトが進む |
| 新ソルベンシー規制 | 2026年3月期に経済価値ベースの新規制導入予定 | 規制対応のための専門人材が必要 |
出典: 2025年3月期有報 事業等のリスク
特に注目すべきは金利変動リスクです。「金利のある世界」への転換は生保にとって追い風と向かい風の両面があります。金利上昇で新規の運用利回りは改善しますが、既に保有している国債の時価は下落します。この「デュレーションギャップ」の管理こそ生保のALMの核心です。有報のリスク欄でも最も多くのスペースを割いて記載されています。
また、個人情報漏洩や不正行為の問題を有報に正直に記載している点も重要です。企業のPRでは触れにくい内容が法定開示書類には記載されるため、志望先企業のリスクを客観的に把握できます。
あなたのキャリアとマッチするか
第一生命の方向性に合う人・合わない人
| 合う人 | 投資方針との論理的つながり |
|---|---|
| 資産運用・金融マーケットに関心がある人 | 総資産69.6兆円の運用は国内最大級。機関投資家としての専門キャリア(2025年3月期) |
| グローバルに働きたい人 | 海外利益構成比40%目標。Protective(北米)・TAL(豪州)・ベトナム等への駐在機会(2025年3月期) |
| 数理・統計のスキルを活かしたい人 | アクチュアリーは生保の中核的な専門職。長寿リスク・金利リスクの数理的管理が経営の核心(2025年3月期) |
| プラットフォームビジネスに関心がある人 | ベネフィット・ワン(会員1,000万人)のエコシステム構築、マイクロソフトとのDX推進(2025年3月期) |
| 合わない人 | 理由 |
|---|---|
| テック企業でエンジニアとして開発に没頭したい人 | 金融機関のためテックファーストの組織ではない。DXは推進中だが開発は外部委託中心 |
| 短期で成果が見える仕事を求める人 | 保険は長期契約ビジネス。成果が数字に反映されるまでに時間がかかる |
| 営業を絶対に避けたい人(総合職の場合) | 総合職は営業部門への配属可能性あり。営業職員の統括・管理も重要業務 |
従業員データ
| 項目 | データ | 読み方 |
|---|---|---|
| 従業員数(連結) | 60,814名 | 営業職員を含む大規模組織 |
| 従業員数(HD単体) | 490名 | 持株会社の経営管理人員 |
| 平均年齢(HD) | 39.2歳 | 金融業として標準的 |
| 平均勤続年数(HD) | 11.7年 | 安定した就業環境 |
| 平均年間給与(HD) | 約1,044万円 | 持株会社のため参考値 |
出典: 2025年3月期有報 従業員の状況
注意: HD(持株会社)の従業員は490名と少なく、平均給与約1,044万円は持株会社の経営管理職の数字です。実際の事業会社である第一生命保険の給与水準とは異なります。また、連結60,814名の多くは営業職員(生涯設計デザイナー等)であり、内勤の総合職とは採用枠やキャリアパスが異なります。社内の雰囲気や実際の働き方は有報ではわかりません。口コミサイト等も併用して確認しましょう。
2025年4月にジョブ型人事制度を導入しており(2025年3月期有報)、専門性を重視する人事への転換が進んでいます。高い専門性を持つ人材の獲得とリテンションを目的としたこの制度変更は、就活生にとって専門性をアピールする好機です。
今から学ぶべき分野
| 分野 | 根拠(有報) | 具体的アクション |
|---|---|---|
| 資産運用・ファイナンスの基礎 | 総資産69.6兆円の運用が利益の柱(2025年3月期) | 証券アナリスト試験(CMA)の学習、FP資格取得 |
| 保険数理(アクチュアリー) | 金利リスク・長寿リスク管理が経営の核心(2025年3月期) | アクチュアリー試験の数学科目、統計学の基礎 |
| 英語力 | Protective(北米)・TAL(豪州)で海外利益比率40%目標(2025年3月期) | TOEIC800点以上、英語での財務データ読解力 |
| DX・データサイエンス | マイクロソフトとの戦略パートナーシップでAI活用推進(2025年3月期) | Python基礎、データ分析入門 |
面接で使える有報ポイント
志望動機での活用
「御社の有報で総資産約69.6兆円を運用する規模を確認しました。国の一般会計予算に匹敵する資産を運用する生命保険会社は、保険の営業会社ではなく日本有数の機関投資家であると理解しています。この資産運用に携わりたいと考えています。」
「中期経営計画で海外保険事業の利益構成比40%を目標に掲げていることを有報で確認しました。ShelterPoint Group買収やベトナムでの新契約シェアトップなど、具体的な成果が出ている点に注目しています。」
「ベネフィット・ワンの買収で保険サービス業への変革を掲げている点に共感しています。会員1,000万人のプラットフォームを保険×非保険のエコシステムに発展させるビジョンは、従来の生保の枠を超えた挑戦だと感じます。」
逆質問で使えるネタ
- 「海外利益構成比40%を目指されていますが、Protective以外に次のM&Aの対象地域はどこですか?」
- 「ベネフィット・ステーションの会員1,000万人を活用した保険×非保険のエコシステムについて、新卒にはどのようなキャリアパスを想定されていますか?」
- 「2025年4月にジョブ型人事制度を導入されましたが、新卒採用における専門性の評価はどのように変わりましたか?」
- 「マイクロソフトとの戦略パートナーシップで社内のAI活用はどの程度進んでいますか?」
保険業界のキャリア比較で東京海上やSOMPOとの違いも確認しておくと、面接での説得力が増します。
損保との比較
| 比較軸 | 第一生命HD(生保) | 東京海上HD(損保) |
|---|---|---|
| 収益の柱 | 資産運用収益 | 保険引受利益 |
| 総資産規模 | 約69.6兆円 | 約30兆円 |
| 海外戦略 | Protective(北米)・TAL(豪州) | スペシャルティ保険M&A |
| 契約期間 | 長期(終身保険等) | 短期(1年更新が主流) |
| 新しい賭け | ベネフィット・ワン | 保険DX・サイバー保険 |
出典: 各社2025年3月期有報
金融業界の有報比較で銀行・証券・保険の全体像も把握しておきましょう。
まとめ
| 視点 | 発見 |
|---|---|
| 何で稼いでいるか | 国内保険事業がセグメント利益の59%。総資産69.6兆円の資産運用が利益の柱 |
| 何に賭けているか | 海外保険、ベネフィット・ワン(保険サービス業への変革)、資本循環経営 |
| 注目リスク | 金利変動、個人情報漏洩・不正行為、国内市場の縮小 |
| 5年後の姿 | グローバル保険グループ×非保険プラットフォームの複合企業 |
第一生命は「保険の営業会社」ではなく、「69.6兆円を運用する機関投資家×海外保険の成長企業×非保険プラットフォーム」という三つの顔を持つ企業です。有報のデータでこの理解を裏付けて面接に臨みましょう。
- 東京海上との比較 → 東京海上の有報分析
- 金融業界の比較 → 金融業界の有報比較
- 有報の読み方 → 有価証券報告書の読み方完全ガイド
本記事のデータは有価証券報告書(EDINET)に基づいています。投資判断を目的としたものではありません。