三菱重工業の有報分析 要点: 三菱重工は売上収益5兆271億円の日本最大の重工業メーカー。しかし利益の約半分(49.6%)を稼ぐのはエナジー事業であり、R&D費の55.1%は航空・防衛・宇宙に集中投資。「利益はエナジー、投資は防衛」の二重構造が有報から見える実態です(2025年3月期有報に基づく)。
この記事のデータは三菱重工業の有価証券報告書(2025年3月期)に基づいています。 有報の読み方がわからない方は有価証券報告書の読み方完全ガイドをご覧ください。
「三菱重工=戦闘機や戦艦を作る防衛産業の巨人」。就活生の多くがそんなイメージを持っているのではないでしょうか。
しかし有報を開くと、まったく異なる姿が浮かび上がります。利益の約半分を稼いでいるのはガスタービン・原子力・風力などのエナジー事業であり、防衛省向け売上は連結売上の14.0%にとどまります。一方で、研究開発費の55.1%は航空・防衛・宇宙に集中投資されている。有報でしか見えない「利益はエナジー、投資は防衛」という二重構造こそ、三菱重工の本当の姿です。
この構造を理解しているかどうかで、面接の説得力は大きく変わります。
三菱重工のビジネスの実態|何で稼いでいるのか
三菱重工は4つの報告セグメントと「その他」区分で事業を展開しています。2025年3月期有報のセグメント情報から、各事業の規模と利益構造を見ていきます。
| セグメント | 売上収益 | 構成比 | セグメント利益 | 利益構成比 | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| エナジー | 1兆8,039億円 | 35.9% | 2,054億円 | 49.6% | 11.4% |
| プラント・インフラ | 8,062億円 | 16.0% | 596億円 | 14.4% | 7.4% |
| 物流・冷熱・ドライブシステム | 1兆3,027億円 | 25.9% | 493億円 | 11.9% | 3.8% |
| 航空・防衛・宇宙 | 1兆293億円 | 20.5% | 1,000億円 | 24.1% | 9.7% |
| その他 | 732億円 | 1.5% | 300億円 | ── | ── |
出典: 三菱重工業 有価証券報告書 2025年3月期 セグメント情報
最大の注目点は、エナジーセグメントの利益2,054億円が報告セグメント利益合計4,143億円の49.6%を占めていることです。売上構成比では35.9%ですが、利益構成比では約半分。ガスタービン(GTCC)・原子力発電システム・風力発電システム・航空機用エンジンなどを手がけるこのセグメントが、三菱重工の収益の柱であることが有報から明確に読み取れます。
一方、売上では2番目に大きい物流・冷熱・ドライブシステム(1兆3,027億円)は、利益率3.8%と低水準です。物流機器・冷熱製品・ターボチャージャなど身近な製品を扱っていますが、利益貢献は限定的です。
航空・防衛・宇宙は売上1兆293億円、利益1,000億円(前期727億円から37.5%増)で、利益率9.7%と安定した収益力を持ちます。このセグメントには特筆すべき情報があります。有報で「連結損益計算書の売上収益の10%以上を占める相手先」として防衛省が明記されており、防衛省向け売上は7,042億円(連結売上の14.0%)。前期の4,898億円から43.8%の急増です。
全体業績推移
5期分の業績推移を見ると、三菱重工の成長トレンドが鮮明になります。
| 指標 | 4期前 | 3期前 | 2期前 | 前期 | 当期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3兆6,999億円 | 3兆8,603億円 | 4兆2,028億円 | 4兆6,571億円 | 5兆271億円 |
| 当期純利益 | 406億円 | 1,135億円 | 1,305億円 | 2,220億円 | 2,454億円 |
| ROE | 3.1% | 7.7% | 7.9% | 11.1% | 10.7% |
| 自己資本比率 | 28.4% | 30.8% | 31.8% | 35.9% | 35.2% |
出典: 三菱重工業 有価証券報告書 2025年3月期 主要な経営指標等の推移(IFRS基準)
売上収益は5期で3兆6,999億円から5兆271億円へ35.9%成長。当期純利益は406億円から2,454億円へと5期連続増益で、利益は約6倍に拡大しました。ROEは3.1%から10.7%へ改善し、自己資本比率も28.4%から35.2%へ上昇しています。
中計「2024事業計画」の初年度にあたる当期は、受注・売上・事業利益がいずれも過去最高を達成しました(2025年3月期有報)。
地域別売上構成
三菱重工は海外売上比率56.5%のグローバル企業です。
| 地域 | 売上収益 | 構成比 |
|---|---|---|
| 日本 | 2兆1,880億円 | 43.5% |
| アメリカ | 1兆1,118億円 | 22.1% |
| アジア | 7,584億円 | 15.1% |
| 欧州 | 4,747億円 | 9.4% |
| その他(中南米・アフリカ・中東等) | 4,942億円 | 9.8% |
出典: 三菱重工業 有価証券報告書 2025年3月期 地域市場別売上収益
海外最大市場はアメリカ(1兆1,118億円)で、アジア・欧州と合わせて海外売上が2兆8,391億円に達しています。エナジー事業のGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)がグローバル需要を取り込んでいることが背景にあります。
三菱重工は何に賭けているのか|投資と研究開発の方向性
三菱重工の投資構造を分析すると、「利益はエナジーで稼ぎ、R&Dは航空・防衛・宇宙に集中投資する」という二重構造が浮き彫りになります。
賭け1: エナジー事業|利益の過半を稼ぐ成長の柱
エナジーセグメントの利益2,054億円は前期の1,499億円から37.1%増加し、全セグメント中最大です。中計「2024事業計画」ではガスタービン(GTCC)を「伸長事業」と位置づけ、海外拠点を含む生産能力増強を推進しています(2025年3月期有報)。
R&D費492億円の主な内容は以下の通りです(2025年3月期有報)。
- 国立研究開発法人NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトへの参画による水素ガスタービン・アンモニアガスタービンの開発
- 高砂水素パーク・長崎カーボンニュートラルパークでのソリューション開発・実証
- 革新軽水炉「SRZ-1200」の開発(世界最高水準の安全性を目指す次世代原子力)
- 高温ガス炉、高速炉、小型炉及びマイクロ炉の開発
設備投資489億円はGTCC関連設備の拡充が中心で、前期比24.1%増。有報では「天然ガスの役割が増加し、GTCC等で当社にとっての事業機会が生じている」と記載されており、短期の追い風を確実に捉えつつ、水素・原子力という中長期のエナジートランジションにも布石を打つ戦略が読み取れます。
賭け2: 航空・防衛・宇宙|R&D費の55%を集中投資
三菱重工のR&D投資で最も際立つのが、航空・防衛・宇宙への集中投資です。
| セグメント | R&D費 | 構成比 |
|---|---|---|
| エナジー | 492億円 | 22.5% |
| プラント・インフラ | 150億円 | 6.9% |
| 物流・冷熱・ドライブシステム | 169億円 | 7.7% |
| 航空・防衛・宇宙 | 1,205億円 | 55.1% |
| その他 | 17億円 | 0.8% |
| 全社 | 154億円 | 7.0% |
| 合計 | 2,187億円 | 100% |
出典: 三菱重工業 有価証券報告書 2025年3月期 研究開発活動(受託研究等1,444億円を含む)
R&D費1,205億円は全社2,187億円の55.1%を占め、利益構成比(24.1%)を大きく上回る投資が行われています。つまり、エナジー事業が稼いだ利益を航空・防衛・宇宙の研究開発に振り向けているという構造です。
主な研究開発内容は以下の通りです(2025年3月期有報)。
- 次世代民間機への複合材構造の適用拡大を目指した軽量化・生産高レート化技術
- 無人機及びAI技術を活用した監視システムの開発
- 重要インフラ向けサイバーセキュリティ技術の開発
- H3ロケットの開発(低コストで高い信頼性を実現)
- 月面探査や有人探査に関連する技術の開発
設備投資379億円は飛しょう体関連設備の拡充が中心で、前期比57.0%増と急拡大しています。防衛省向け売上7,042億円(前期比43.8%増)の急増と併せて見ると、防衛力強化という国策に沿った事業拡大の動きが鮮明です。中計では防衛分野について「組織横断タスクフォースにより生産効率向上、サプライヤー支援及び物流改善等の増産準備を進める」と記載されています(2025年3月期有報)。
R&D投資の業界比較については、研究開発費ランキングで詳しく分析しています。
賭け3: データセンター・GX|成長領域として新設
中計「2024事業計画」で「成長領域」と位置づけられたのが、データセンターとGX(グリーントランスフォーメーション)です。当期に新設された「その他」セグメント(売上732億円、利益300億円)に電化・データセンター事業等の成長分野が集約されました(2025年3月期有報)。
有報では「需要が拡大しているデータセンターでは、当社が強みを持つ電源・冷却・制御に関する幅広い製品とエンジニアリングを統合して最適なソリューションを提供する」と明記されています。R&Dでもデータセンター向けユーティリティシステムや次世代電源・冷却技術の開発に17億円を投じています(2025年3月期有報)。
GX分野では、ExxonMobil社との次世代CO2回収技術の共同研究開発や、関西電力姫路第二発電所内に新設したCO2回収パイロットプラントでの実証を進めています。高効率な水素製造装置であるSOEC(高温水蒸気電解)の開発も推進中です。
設備投資の全体像
| セグメント | 設備投資額 | 前期比 | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| エナジー | 489億円 | +24.1% | GTCC関連設備の拡充 |
| プラント・インフラ | 259億円 | +225.4% | 製鉄機械関連設備の拡充 |
| 物流・冷熱・ドライブシステム | 540億円 | -26.1% | リース用機器の取得 |
| 航空・防衛・宇宙 | 379億円 | +57.0% | 飛しょう体関連設備の拡充 |
| その他 | 88億円 | -79.5% | オフィスビルの新設 |
| 全社又は消去 | 89億円 | +40.4% | 研究開発関連設備の拡充 |
| 合計 | 1,843億円 | -4.9% | ── |
出典: 三菱重工業 有価証券報告書 2025年3月期 設備投資等の概要
設備投資では物流・冷熱・ドライブシステム(540億円)が最大ですが、前期比では減少しています。一方、エナジー(+24.1%)と航空・防衛・宇宙(+57.0%)が伸びており、「伸長事業」への資源集中が進んでいることが読み取れます。設備投資の業界比較は設備投資ランキングをご覧ください。
三菱重工が自ら語るリスクと課題|PRでは絶対に出ない情報
有報のリスク情報は、企業が自ら開示を義務づけられている「不都合な事実」です。三菱重工の有報には、以下のリスクが記載されています。
リスク1: 防衛省への売上集中|単一顧客7,042億円(売上の14%)
有報で「連結損益計算書の売上収益の10%以上を占める相手先」として防衛省が明記されています。防衛省向け売上は前期4,898億円から当期7,042億円へと43.8%急増しました(2025年3月期有報)。
防衛予算の方針変更や契約遅延が業績に直接影響しうる構造です。防衛事業は国の政策に依存する度合いが高く、政権交代や国際情勢の変化がリスク要因となります。
リスク2: エナジートランジションの事業化時間軸リスク
有報では「脱炭素化関連プロジェクトへの投資が低迷し、再生可能エネルギー、水素、アンモニア等の普及に停滞傾向が見られる」と記載されています。さらに「CCSや水素等の当社製品・サービスの実装が著しく遅延する」リスクを自ら認識しています(2025年3月期有報)。
一方で「天然ガスの役割が増加し、GTCC等で当社にとっての事業機会が生じている」とも記載しており、短期的にはGTCC需要が追い風になっている構造です。現在のGTCC好調がいつまで続くか、水素・アンモニアの社会実装がいつ本格化するか。この2つの時間軸の読みが経営の分岐点であることが有報から読み取れます。
リスク3: 製品・サービスの品質・コスト悪化リスク
有報では「製品の性能・納期の問題」「仕様変更や工程遅延等に起因するコスト悪化」「材料・部品等の調達や工事に伴う問題」を主要リスクとして明記しています(2025年3月期有報)。
三菱重工が手がけるのは大型プラントや防衛装備品など個別案件の規模が大きい製品群です。1つのプロジェクトの問題が業績全体に重大な影響を与えうる構造は、就活生にとっても理解しておくべき点です。有報リスク情報の読み方で、リスク欄から企業の課題を読み解く方法を解説しています。
リスク4: 人材不足・技能断絶リスク
有報では「人口減少・少子高齢化の一層の進展による人材不足の深刻化」、さらに「若年層の製造業離れや工学系学科の技術者の確保難による技術・技能の断絶」をリスクとして明記しています(2025年3月期有報)。
連結77,274名の巨大組織において、熟練技能の伝承と次世代人材の確保が経営課題であることを企業自身が認めています。裏を返せば、工学系の学生にとっては「必要とされている」ことが有報で裏付けられているとも言えます。
あなたのキャリアとマッチするか
三菱重工は4セグメント+成長領域という幅広い事業ポートフォリオを持つため、配属先によって仕事内容が根本的に異なります。志望動機で「どのセグメントで何をしたいか」を明確にすることが重要です。
| 観点 | 合う人 | 合わない人 |
|---|---|---|
| 技術分野 | エネルギー(火力・原子力・水素・アンモニア)で社会インフラを支えたい人 | BtoC商材やコンシューマー向けサービスに関わりたい人 |
| 産業領域 | 防衛・宇宙産業に日本最大の民間メーカーとして参画したい人 | 短期間で事業成果を出すスピード感を求める人(大型PJは年単位で動く) |
| キャリア幅 | 発電・航空機・ロケット・物流機器・冷熱製品の中から専門性を深めたい人 | 配属リスクを避けたい人(セグメント間で仕事が全く異なる) |
| グローバル | 海外売上比率56.5%の環境で働きたい人 | 脱炭素の急速な社会実装に関わりたい人(有報で普及停滞傾向を認識) |
| 待遇 | 平均年収1,018万円・平均勤続18.9年の安定を求める人 | ── |
従業員データ(2025年3月期有報)
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 連結従業員数 | 77,274名 |
| 単体従業員数 | 22,347名 |
| 平均年齢 | 42.5歳 |
| 平均勤続年数 | 18.9年 |
| 平均年間給与 | 約1,018万円 |
出典: 三菱重工業 有価証券報告書 2025年3月期 従業員の状況
平均年間給与1,018万円は製造業としては高い水準です。同じ重工業のIHI(約813万円)と比較すると200万円以上の差があります。平均勤続年数18.9年は長期キャリアを築く社員が多いことを示しています。
中計「2024事業計画」では「技術・人的基盤の強化」を重点テーマに掲げ、デジタル・プラットフォーム「ΣSynX(シグマシンクス)」を活用したDX推進、デジタルイノベーション教育プログラムの充実、熟練技能のデジタル技術による可視化と技能伝承を進めています(2025年3月期有報)。
面接で使える有報ポイント
志望動機での活用例
NG: 「日本を守る防衛産業に貢献したい」(イメージ先行で企業理解が浅い)
OK: 「有報でエナジーセグメントの利益2,054億円が報告セグメント利益の49.6%を占めることを確認しました。三菱重工は『防衛の企業』ではなく『利益はエナジー、投資は防衛』という二重構造を持つ企業であり、この構造こそが長期的な競争力の源泉だと考えています。特にGTCC需要の追い風の中でエナジー事業が稼いだ利益を航空・防衛・宇宙のR&Dに55%も集中投資している点に、技術力で社会課題を解決するという御社の経営姿勢を感じました」
中計「2024事業計画」の2026年度目標(売上5.7兆円以上、事業利益4,500億円以上、ROE12%以上)に対し、初年度実績(売上5.03兆円、事業利益3,832億円、ROE10.7%)の進捗状況にも触れると、経営戦略を数字で把握していることが伝わります。
有報を面接で活用する方法の詳細は有報を面接で活用する方法をご覧ください。
逆質問例(有報ベース)
- 「エナジーセグメントが利益の約半分を稼いでいますが、GTCC需要の追い風が続く中で生産能力の増強はどの程度進んでいますか?人材採用との関係も教えてください」
- 「R&D費の55%が航空・防衛・宇宙に集中していますが、新卒配属においてこの分野の技術者枠はどのように設定されていますか?」
- 「有報で水素・アンモニア等の普及停滞傾向に言及されていますが、成長領域への投資判断のタイムラインをどのように考えていますか?」
- 「防衛省向け売上が前期比43.8%増と急拡大していますが、増産体制の整備状況と、若手人材に期待する役割を教えてください」
まとめ
三菱重工業の有報(2025年3月期)が示す「この会社が賭けているもの」は3つです。
| 賭けているもの | 有報の根拠 | キャリアへの意味 |
|---|---|---|
| エナジー事業 | セグメント利益2,054億円(全体の49.6%)、GTCC需要の追い風 | 火力・原子力・水素で社会インフラを支えるエンジニアに |
| 航空・防衛・宇宙 | R&D費1,205億円(全社の55.1%)、防衛省向け売上7,042億円 | 防衛・宇宙産業に日本最大の民間メーカーとして関わりたい人に |
| データセンター・GX | 「その他」セグメント新設(売上732億円)、成長領域として集中育成 | 重工業の技術基盤を活かした新規事業に挑戦したい人に |
「防衛の三菱重工」というイメージと、有報が示す「エネルギーで稼ぐ三菱重工」の違いを理解しているだけで、面接での印象は大きく変わります。さらに、4セグメント+成長領域という多角化構造の中で「自分はどのセグメントで何をしたいか」を語れることが、他の就活生との差別化につながります。
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※本記事は有価証券報告書の公開情報に基づく分析であり、特定の企業への就職を推奨するものではありません。投資判断を目的とした情報提供でもありません。就職活動における企業研究の一助としてご活用ください。