ホンダの有報分析 要点: ホンダは売上高21.7兆円の世界的自動車・二輪メーカー。二輪の利益率17.8%が四輪(3.7%)の約5倍という意外な収益構造を持ち、R&D費9,016億円(売上比3.88%)をEV・SDV転換に集中投下。Honda 0シリーズ・北米電池工場・日産統合検討が同時進行する変革の真っ只中にある。(2025年3月期有報・公開IR情報に基づく)
この記事のデータは本田技研工業の有価証券報告書(2025年03月期)に基づいています。 有報の読み方がわからない方は有価証券報告書の読み方完全ガイドをご覧ください。
本田技研工業は、「バイクも作るクルマ会社」ではありません。有報を開くと、バイク(二輪事業)がホンダ全体の利益を支える「最強の稼ぎ頭」であることがわかります。
売上21.7兆円・連結従業員19.7万人。ホンダ EV戦略の本丸「Honda 0シリーズ」、日産との経営統合検討、北米での電池工場建設──歴史的な変革が同時進行中です。この会社のリアルを、有報のデータで読み解きます。
ホンダのビジネスの実態|何で稼いでいるのか
セグメント情報とは、企業の事業部門ごとの売上高や利益を分けて示したものです。ホンダは4つのセグメントで構成されています。その収益構造には、就活サイトでは知ることのできない「意外な事実」が隠れています。
| セグメント | 売上高 | 前年比 | 営業利益 | 利益率 |
|---|---|---|---|---|
| 二輪事業 | 3兆3,279億円 | +19.2% | 5,908億円 | 17.8% |
| 四輪事業 | 16兆3,947億円 | +12.2% | 5,993億円 | 3.7% |
| 金融サービス事業 | 2兆4,548億円 | +30.1% | 4,014億円 | 16.4% |
| パワープロダクツ・その他 | 9,356億円 | +8.9% | 378億円 | 4.0% |
出典: 本田技研工業 有価証券報告書 2025年03月期 セグメント情報
この表から読み取れる最大の事実は、二輪事業の利益率17.8%が四輪事業(3.7%)の約5倍という構造です。「ホンダ=クルマを売る会社」というイメージとは、全く異なる実態です。
四輪事業は売上の75.6%を占める最大事業ですが、利益率はトヨタ(9.1%)・BMW(約8%)と比べても大きく見劣りします。中国市場でのBYD等との競争激化と北米での販売奨励金(インセンティブ)の増加、そしてEV転換への投資負担が利益を圧迫しています(2025年03月期 四輪セグメント)。
一方、二輪事業はインド・インドネシア・ベトナム等のアジア新興国で圧倒的なシェアを持ちます。円安効果も加わって前年比+19.2%の大幅増収増益を達成しました。「バイクで稼いで、クルマのEV転換に投資する」──これがホンダの財務の実態です。
金融サービス事業(売上2兆4,548億円・利益率16.4%)も前年比+30.1%で急成長中です。自動車ローン・リース事業は、クルマの販売よりも高い収益性を持つ隠れた稼ぎ頭です。文系で金融・ファイナンスに興味がある就活生にとっては、「自動車メーカーの金融部門」という意外なキャリアパスが存在します。
5年間の売上推移を見ると、2021年03月期の14.9兆円から2025年03月期の21.7兆円へと約1.45倍に成長しています(主要財務指標の推移・IFRS)。ただし、トヨタの1.76倍と比べると成長率はやや控えめです。特に中国事業の苦戦が全体に影響しています。
製造業全体の動向と合わせて見ると、完成車メーカーの利益構造がEV転換期に大きく揺れていることがわかります。
ホンダは何に賭けているのか|投資と研究開発の方向性
設備投資とは、工場・設備・技術インフラへの投資のことです。その内訳を見ると、企業が「未来の何に資金を投じているか」が明確になります。
ホンダの2025年03月期の設備投資総額は1兆900億円、前年比+17.5%です。来期はさらに1兆2,000億円を計画しており、投資規模が急加速しています(2025年03月期 設備の状況)。
また研究開発費は9,016億円です。トヨタの1兆3,265億円(売上比2.76%)より絶対額は少ないものの、売上比率ではホンダが上回ります。「技術で差別化する会社」であることを数字が示しています(2025年03月期 研究開発活動)。
設備投資・R&Dの読み方をもっと詳しく知りたい方は設備投資・R&Dの読み方ガイドをご覧ください。
Honda 0シリーズ|エンジンの本田がソフトウェアに賭ける
| 投資領域 | 規模(推計) | 内容 |
|---|---|---|
| EV・SDV開発(Honda 0シリーズ) | R&D費の約44%(推計4,000億円超) | 新世代EVアーキテクチャ・車載OS・OTA開発 |
| 北米電池工場(Honda LG Energy Solution Michigan) | 合弁総額約44億ドル(ホンダ負担分約半額) | 2025年頃量産開始予定 |
| 二輪電動化・アジア拠点 | 約1,080億円(二輪設備投資) | インド・ASEAN電動二輪の量産体制 |
出典: 本田技研工業 有価証券報告書 2025年03月期・公開IRプレスリリース
2024年1月のCESでホンダが発表した「Honda 0シリーズ」は、単なる新型EV発表ではありません。これはホンダの開発哲学の根本転換を意味しています。コンセプトは「Thin(薄い)、Light(軽い)、Wise(賢い)」です。車両をハードウェアではなくソフトウェアで差別化するSDV(ソフトウェアデファインドビークル)への移行宣言です。
SDVとは、スマートフォンのようにOTA(Over-The-Air:無線通信によるソフトウェア更新)で車の性能・機能を進化させる車両のことです。テスラが先行したこのモデルに、ホンダが本気で取り組む姿勢を投資額が示しています。
2026年の北米発売予定のHonda 0 SUV・Honda 0 Saloonを皮切りに、ホンダは電動アーキテクチャを全面刷新します。エンジン技術に強みを持つホンダが、車載ソフトウェア・AIの世界でも競争力を確立できるか。それが2030年代のホンダを決める賭けです。
理系のソフトウェアエンジニア(組込みOS・Rust/C++・機械学習)にとっては、完成車メーカーの中でも最前線のSDV開発に携われる環境として注目できます。Python×データ分析だけでなく、車載開発特有の低レイヤーソフトウェアのスキルも武器になると考えられます。
ホンダ EV戦略の要:北米電池工場
LG Energyとの50/50合弁会社「Honda LG Energy Solution Michigan」は、北米EV量産に不可欠な電池供給拠点です。合弁投資総額は約44億ドル(約6,000億円超)と巨額で、「北米でEVを本気で売る」という意志の表れです。同時に、現地生産による米国関税リスクへの対応策でもあります。
デンソーがホンダ向けの電動化部品(インバータ・eAxle)を供給する立場にあり、完成車メーカーと部品メーカーが連携してEV時代に対応する構図が有報から見えてきます。
ホンダが自ら語るリスクと課題|PRでは絶対に出ない情報
「事業等のリスク」とは、企業が法律に基づいて自社の経営リスクを開示するセクションです。就活メディアには載らない「会社の本音」が読み取れる有報の肝心な部分です。
ホンダ固有の文脈で注目すべきリスクを3点選びます。
- 中国四輪事業の収益悪化(注目度:高)
中国市場での四輪販売台数は2023年以降、BYD(比亜迪)をはじめとする中国地場EVメーカーの台頭により前年割れが続いています(2025年03月期 有報)。ホンダの中国売上は四輪全体の約15〜20%と推計され、無視できない規模となっています。
「中国×自動車」というキャリアに関心がある就活生は、この状況を正確に認識しておく必要があります。事業の再構築・縮小フェーズへの配属は、若手に困難な環境をもたらす可能性があります。一方で、構造改革を担う経験を早期に積める機会でもあります。
- 日産との経営統合の不確実性
2024年12月に発表された日産との経営統合検討は、日本の自動車業界最大の変数です。実現すれば両社合算で年間約800万台規模のEV・SDV開発連合が生まれます。開発コストの分担とプラットフォーム共通化による効率化が期待されています。
ただし2026年2月時点では交渉状況は流動的です。統合の成否にかかわらず、ホンダの組織・事業は何らかの変化を迎える可能性があります。「入社後に組織が大きく変わるかもしれない」という事実を、就活生はリスクとして認識しつつ、変革の担い手というチャンスとして前向きに捉えることもできます(2024年12月 公開プレスリリース)。
- 米国関税・通商政策の変動
北米はホンダの最大市場で、売上の約45%を占めると推計されます(有報の地域別売上より)。2025年以降の米国関税強化はホンダにも影響します。オハイオ州・アラバマ州での米国内生産体制がリスク低減に貢献しますが、完全な回避は難しい状況です。有報のリスク項目にも通商政策変動への言及があります(2025年03月期 事業等のリスク)。
あなたのキャリアとマッチするか
キャリアマッチとは、企業の投資方向性と自分の志向・スキルの相性のことです。ホンダの有報を読んだ上で、就活生に「合う人」と「合わない可能性がある人」を整理します。
| ホンダの方向性に合う人 | 合わない可能性がある人 |
|---|---|
| 車載ソフトウェア・OTA・AIに取り組みたいエンジニア | ガソリンエンジン技術を極めたい人 |
| EV・電池技術に関心がある理系学生 | スタートアップのようなスピード感を求める人 |
| アジア新興国(インド・東南アジア)で働きたい人 | 組織変化なく安定した環境を求める人 |
| 「変革の担い手」として会社を変えたい人 | 確定した将来像の中で長期キャリアを描きたい人 |
| 金融・ファイナンスに関心がある文系学生 | 「ホンダ=四輪だけ」のイメージしかない人 |
出典: 本田技研工業 有価証券報告書 2025年03月期 各種データより分析
従業員データを見ると、連結197,365人・単体29,353人、平均勤続年数20.6年・平均年齢44.5歳です(2025年03月期 従業員の状況)。長期雇用の文化は健在です。EV・SDV転換という変革期に入りながらも、腰を据えて技術を磨ける環境が続いています。
投資方針から逆算した「今から学ぶべき分野」
| 学ぶべき分野 | 根拠(有報データ) |
|---|---|
| 車載ソフトウェア・組込み開発(C++/Rust/Linux) | SDV・OTA移行でホンダが最も求める人材。Honda 0シリーズ開発の核心(2025年03月期 経営方針) |
| EV・電池の基礎(リチウムイオン電池・全固体電池) | 北米電池工場(Honda LG Energy Solution)への大型投資が進行中 |
| 新興国市場分析(インド・ASEANの経済・政策) | 二輪事業の主戦場はアジア。電動二輪市場の急成長(二輪+19.2%)が学習の根拠(2025年03月期 セグメント情報) |
| 国際通商・関税政策の基礎(米国・中国) | 北米売上45%・中国事業苦戦という状況で、通商政策の理解が直接業務に関係 |
「プログラミングを学ぼう」のような漠然とした提案ではなく、ホンダの投資先と論理的につながった学習が就活でも面接でも力を発揮します。
なお、社風・職場の雰囲気・上司との関係性といった情報は有報ではわかりません。OpenWork等の口コミサイトやOB/OG訪問を活用し、特にEV・SDV部門の現場社員の声を積極的に聞くことをおすすめします。
面接で使える有報ポイント
有報の情報を面接で活用するとは、企業の公式データを自分の言葉で語ることです。ほとんどの就活生はホンダの有報を読んでいないため、具体的なデータに触れるだけで企業研究の深さをアピールできます。面接での有報活用法を押さえておくと、以下の発言例がより説得力を持ちます。
有報の情報を面接で語る例
「御社の有報を拝見し、二輪事業の営業利益率が17.8%と四輪事業(3.7%)の約5倍であることに注目しました。インドや東南アジアでの圧倒的なシェアを持つ二輪が御社のEV転換を財務面で支えている構造が、有報の数字から明確に読み取れました。」
「R&D費が9,016億円で売上比3.88%と、同じ完成車メーカーのトヨタ(2.76%)を上回っている点が印象的でした。Honda 0シリーズのSDV開発という具体的な目標に向けて、技術投資の本気度が数字に表れていると感じます。」
「日産との経営統合検討については、EV・SDV開発コストの分担という戦略的必然性があると理解しています。変革期に御社に入社することは、日本の自動車産業の転換点に関与できる希少な機会だと前向きに捉えています。」
「金融サービス事業が売上前年比+30.1%・利益率16.4%で急成長していることを有報で知りました。クルマを売った後のファイナンス体験全体で価値を提供するモデルが、四輪事業とは異なる成長軸になりうると理解しています。」
逆質問で使えるネタ
- 「Honda 0シリーズのSDVアーキテクチャ開発において、入社後に若手エンジニアが携われる領域はどのような範囲ですか?」
- 「有報で二輪の利益率が17.8%・四輪の約5倍であることに注目しましたが、二輪の強みをEV転換に活かす上で現場ではどのような取り組みが進んでいますか?」
- 「日産との経営統合検討が報じられていますが、仮に統合が実現した場合、若手社員のキャリアパスや配属への影響はどう想定されていますか?」
- 「R&D費のトヨタ比較で売上比率がホンダの方が高い点が印象的でしたが、どの技術領域に最も力を入れているか教えていただけますか?」
有報の記述を引用しつつ、現場のリアルを引き出す逆質問は、面接官に「よく調べている学生だ」という印象を与えます。
有報データから逆算して今から学ぶべき分野
| 分野 | 根拠(有報) | 具体的アクション |
|---|---|---|
| EV・SDV(ソフトウェア定義車両) | Honda 0シリーズに向けたR&D費9,016億円の重点配分(2025年3月期) | 車載ソフトウェア、電動パワートレインの基礎学習 |
| 二輪・モビリティ技術 | 二輪営業利益率17.8%、アジア電動二輪の市場拡大(2025年3月期) | モビリティビジネスの構造理解、アジア市場リサーチ |
| 航空・ロボティクス | eVTOL・航空機エンジン・ロボティクスを中長期の賭けに明示(2025年3月期) | 航空工学・ロボティクスの基礎、制御工学入門 |
| 英語力 | 海外売上比率約80%、グローバル二輪・四輪事業(2025年3月期) | TOEIC800点以上、グローバルプロジェクト対応力 |
まとめ
ホンダ(本田技研工業)の有報から読み取れる核心は3つです。
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二輪が利益の主役、四輪がEV転換の挑戦者 二輪(利益率17.8%)がホンダの財務を支えながら、四輪(利益率3.7%)のEV転換に投資する構造。「バイクで稼いで、クルマの未来を買う」会社。
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Honda 0シリーズとSDVが10年の命運を握る R&D費9,016億円の大半をEV・SDV開発に投下。2026年の北米発売が「エンジンの本田」から「ソフトウェアの本田」への転換の試金石。
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変革の真っ只中にある会社へ入社する覚悟 日産統合・中国事業再編・SDV移行と、多くの変数が同時進行。「安定した大企業」ではなく「変革の最前線にいる巨大組織」として入社を検討することが重要。
ホンダを目指す就活生は、「クルマ好き」「バイク好き」だけでなく、SDVとは何か・ホンダが電池工場に何を賭けているか・二輪がなぜ利益率5倍なのかを有報のデータで語れると、面接での差別化が大きく広がります。
有報をさらに深く読みたい方は、[有価証券報告書の読み方完全ガイド]で基本を押さえた上で、トヨタの有報分析や[デンソーの有報分析]で完成車メーカーと部品メーカーの戦略の違いを比較してみてください。[製造業全体の比較]も、ホンダの立ち位置を理解するのに役立ちます。
本記事のデータは本田技研工業の有価証券報告書(2025年03月期・EDINET)および公開IRプレスリリース等に基づいています。投資判断を目的としたものではありません。企業の将来の業績を保証するものではなく、最新情報は企業の公式IR資料をご確認ください。日産との経営統合状況は2026年2月時点のものであり、その後変化している可能性があります。