IHIの有報分析 要点: IHIは航空・宇宙・防衛セグメントの利益1,227億円が連結営業利益の約85%を占める「航空エンジン企業」。前期の赤字682億円から当期は黒字1,127億円へV字回復し、ROEは26.3%に。アンモニア燃焼技術では世界をリードする位置にあります(2025年3月期有報)。
この記事でわかること
IHI(7013)の有価証券報告書(2025年3月期)を分析し、就活生が知るべき「この会社が賭けているもの」を明らかにします。
| この会社が賭けているもの | 有報の根拠 |
|---|---|
| 航空エンジン | セグメント利益1,227億円(全体の約85%)、前期赤字1,028億円からV字回復 |
| アンモニア燃焼技術 | 「世界をリードする位置」(有報記載)、碧南火力で燃料比20%達成 |
| 防衛・宇宙事業 | 政府の防衛力強化方針を追い風に事業拡大、R&D費の61.8%を成長・育成事業に集中 |
データソース: 本記事の数値はすべてEDINETで公開されているIHIの有価証券報告書(2025年3月期・第208期)に基づいています。
「橋やボイラーを作る重工業メーカー」──IHIに対してそんなイメージを持っていませんか?
有報を開くと、まったく別の姿が見えてきます。航空・宇宙・防衛セグメントの利益1,227億円は連結営業利益の約85%を占め、IHIは実質的に「航空エンジン企業」です。しかも前期はPW1100G-JMエンジン問題で赤字682億円だったのが、当期は黒字1,127億円へ劇的にV字回復。さらにアンモニア燃焼技術では「世界をリードする位置」にあると有報自ら記載しています。
重工業の看板の下に隠れた、航空エンジン・アンモニア燃焼・防衛・宇宙という先端技術の塊。有報でしか見えない「IHIの本当の姿」を、就活生の視点で読み解いていきます。
IHIのビジネスの実態|何で稼いでいるのか
セグメント別業績(2025年3月期有報)
IHIは4つの事業セグメントで構成されています。
| セグメント | 売上収益 | 構成比 | セグメント利益 | 前期利益 | 前期比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 資源・エネルギー・環境 | 4,083億円 | 25.1% | 161億円 | 177億円 | -9.0% |
| 社会基盤 | 1,559億円 | 9.6% | 94億円 | 150億円 | -37.1% |
| 産業システム・汎用機械 | 4,756億円 | 29.2% | 108億円 | 127億円 | -15.1% |
| 航空・宇宙・防衛 | 5,527億円 | 34.0% | 1,227億円 | -1,028億円 | V字回復 |
(出典:2025年3月期有報 セグメント情報)
最大の注目点は、航空・宇宙・防衛セグメントの利益構造です。このセグメントだけで1,227億円の利益を稼ぎ、連結営業利益1,435億円の約85%を占めています。
前期の赤字1,028億円は、民間向け航空エンジンPW1100G-JM(A320neo用)の追加検査プログラムにより、売上収益を1,559億円減額したことが主因です。当期はこの影響が剥落し、劇的なV字回復を遂げました。
一方、他の3セグメントはいずれも減益。IHIの利益は航空エンジン1セグメントに極めて集中しているという構造が有報から明確に読み取れます。
全体業績推移(5期分)
| 指標 | 4期前 | 3期前 | 2期前 | 前期 | 当期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆1,129億円 | 1兆1,729億円 | 1兆3,529億円 | 1兆3,225億円 | 1兆6,268億円 |
| 当期純利益 | 130億円 | 660億円 | 445億円 | -682億円 | 1,127億円 |
| ROE | 4.5% | 19.4% | 11.0% | -16.9% | 26.3% |
| 自己資本比率 | 16.4% | 20.3% | 22.2% | 17.9% | 21.5% |
(出典:2025年3月期有報 主要な経営指標等の推移、IFRS基準)
売上収益は5期で1兆1,129億円から1兆6,268億円へ46.2%成長。ただし利益は大きく変動しており、特に前期の赤字682億円→当期の黒字1,127億円という振幅の大きさが目を引きます。
当期のROE26.3%はIFRS適用の大手製造業でも高い水準ですが、これは航空エンジン問題の影響剥落という一時的要因が大きく、持続的な高ROEかどうかは今後の推移を見る必要があります。
IHIは何に賭けているのか|投資と戦略の方向性
IHIは中期経営計画「グループ経営方針2023」(2023〜2025年度)で、事業を3つに区分しています。
| 区分 | 対象 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 成長事業 | 航空エンジン・ロケット | グループの成長を牽引 |
| 育成事業 | クリーンエネルギー(アンモニア燃焼) | 成長事業と双璧をなすドライバーに育成 |
| 中核事業 | 資源・エネルギー・環境、社会基盤、産業システム・汎用機械 | 安定的キャッシュ創出、低収益事業は構造改革 |
(出典:2025年3月期有報 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等)
賭け1: 航空エンジン|利益1,227億円、前期赤字からの劇的V字回復
航空・宇宙・防衛セグメントの利益1,227億円は、IHIの利益の大半を占めます。
IHIはA320neo用のPW1100G-JMエンジンに約15%のシェアで参画しています。前期(2024年3月期)は、出荷済みエンジンの追加検査プログラムにより売上収益を1,559億円減額し、セグメント赤字1,028億円を計上しました。2024年から2026年に平均350機の地上駐機が見込まれたことから、補償費用・追加整備費用等が発生したためです。
当期はこの影響が剥落し、航空旅客需要の回復を受けてV字回復。中計では航空エンジンを「成長事業」の筆頭に位置づけ、さらにカーボンニュートラルに向けた電動化・水素推進の技術開発にも取り組んでいます。
セグメント資産9,963億円は全セグメント最大であり、IHIの経営資源が航空エンジン事業に集中していることを示しています(2025年3月期有報)。
賭け2: アンモニア燃焼技術|世界をリードする位置
IHIが「育成事業」として集中投資しているのが、アンモニア燃焼技術を中心としたクリーンエネルギー分野です。
有報には「当社グループはアンモニアの燃焼技術において世界をリードする位置にあります」と明記されています。具体的な成果として:
- 碧南火力発電所における燃料アンモニア転換実証試験で燃料比20%を達成
- アンモニア燃料タグボート「魁(さきがけ)」で世界初の3か月間の実証航海を達成
- 再生可能エネルギー由来のグリーン水素を原料としたCO2フリーのアンモニア製造装置を開発
- ナフサ分解炉用のアンモニア専焼バーナを開発し、国内初の燃焼を実証
アンモニアは燃焼時にCO2を排出しないため、石炭火力発電所の脱炭素化手段として注目されています。IHIは製造・貯蔵・輸送・利活用のバリューチェーン全体を構築する方針です。
R&D費340億円のうち、成長・育成事業向けが210億円(61.8%)。航空エンジンとアンモニア燃焼への集中投資が明確です(2025年3月期有報)。
賭け3: 防衛・宇宙事業|政府方針を追い風に拡大
航空・宇宙・防衛セグメントの中で、防衛事業は政府の防衛力抜本的強化方針を受けて拡大中です。
有報には「防衛力の抜本的強化の政府方針を受けて防衛事業を拡大させる」と記載されており、長期的な成長ドライバーとして宇宙事業(ロケットシステム・宇宙利用)も推進しています。
IHIの強みは、民間航空エンジンと防衛エンジンの技術・経験のシナジーを活かせる点です。中計でも「民間・防衛における技術・経験のシナジーによる新たな事業創出」を掲げています。
設備投資額は974億円で、航空・宇宙・防衛セグメントへの資本的支出386億円は全セグメント最大です(2025年3月期有報)。
IHIが自ら語るリスクと課題|PRでは絶対に出ない情報
リスク1: 航空エンジン1セグメントへの利益集中
航空・宇宙・防衛セグメントの利益1,227億円は連結営業利益の約85%を占めます。前期はこのセグメントの赤字が連結赤字の主因となりました。
航空エンジン問題の再発や航空需要の変動が、IHIの業績全体を左右する構造です。他の3セグメント(資源・エネルギー・環境、社会基盤、産業システム・汎用機械)はいずれも利益規模が100億円台にとどまり、航空エンジンの不調を補う力がありません。
中計では中核事業の「収益性・効率性の低い事業については事業構造改革を推進」としていますが、航空エンジン依存からの脱却は容易ではないことが有報の数字から読み取れます(2025年3月期有報)。
リスク2: 複数のコンプライアンス問題
IHIの有報には、短期間に発生した3つのコンプライアンス問題が記載されています。
| 問題 | 内容 | 有報記載の対応 |
|---|---|---|
| エンジン試運転記録の不適切行為 | IHI原動機で船舶用・陸上用エンジンの試運転記録に不適切な修正 | 2024年10月に再発防止策を策定・公表 |
| 除雪装置の不適切行為 | 交通システム事業の除雪装置で不適切行為が発覚 | 除雪性能試験を網羅的に実施、再発防止策策定 |
| 機械式駐車装置の独禁法違反 | 2025年3月に独占禁止法違反が認定 | 再発防止の徹底に取り組み中 |
(出典:2025年3月期有報 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等)
有報では「コンプライアンス意識の再徹底及び組織風土の改善」を対処すべき課題として挙げています。就活生にとっては、組織風土に問題がないかを面接で確認する重要なポイントです。
リスク3: アンモニア燃焼の事業化リスク
「育成事業」と位置づけるクリーンエネルギー分野は、技術的には世界をリードしていますが、現時点での利益貢献は限定的です。
アンモニアの社会実装には、燃料アンモニアの大量生産・輸送インフラの整備・経済性の確保など多くのハードルが残ります。中計では「航空エンジン・ロケット分野と双璧をなす成長ドライバーに育成する」としていますが、その時間軸は明示されていません(2025年3月期有報)。
あなたのキャリアとマッチするか
キャリアマッチ診断
| 観点 | 合う人 | 合わない人 |
|---|---|---|
| 技術志向 | 航空エンジン・アンモニア燃焼など先端技術の最前線で働きたい人 | BtoC商材や消費者向けサービスに関わりたい人 |
| 事業領域 | 防衛・宇宙産業にメーカーの立場から参画したい人 | 業績の安定性を最優先する人(航空エンジン依存のリスクあり) |
| 社会貢献 | 脱炭素・社会インフラ整備で社会課題を解決したい人 | コンプライアンスリスクを強く懸念する人(複数問題が発生) |
| 働き方 | 重工業の技術基盤で専門性を深めたい人 | 知名度の高いBtoC企業で働きたい人 |
従業員データ(2025年3月期有報)
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 連結従業員数 | 27,990名 |
| 単体従業員数 | 7,911名 |
| 平均年齢 | 41.1歳 |
| 平均勤続年数 | 15.8年 |
| 平均年間給与 | 約813万円 |
(出典:2025年3月期有報 従業員の状況)
平均勤続年数15.8年は製造業として標準的な水準です。平均年間給与813万円は、日立製作所や三菱電機などの総合電機メーカーと比較すると概ね同水準の範囲にあります(各社有報を参照)。
有報の限界: 有報には職場環境や社風に関する定性的な情報は含まれていません。コンプライアンス問題の実態や改善状況については、OB/OG訪問や説明会で直接確認することをお勧めします。
面接で使える有報ポイント
志望動機での活用例
NG: 「重工業メーカーとして社会インフラに貢献したい」(企業研究不足が透ける)
OK: 「有報を分析し、航空・宇宙・防衛セグメントの利益1,227億円が連結の約85%を占めることを確認しました。IHIは『重工業メーカー』ではなく実質的に『航空エンジン企業』であり、さらにアンモニア燃焼技術で世界をリードしている点に強く惹かれました。成長事業と育成事業への集中投資の姿勢から、技術で社会課題を解決するという経営理念が実際の経営戦略に反映されていると感じています」
逆質問例(有報ベース)
- 「航空エンジン事業が利益の大半を占めていますが、中核事業(資源・エネルギー・環境、社会基盤、産業システム)の収益性向上に向けた具体的な取り組みを教えてください」
- 「アンモニア燃焼技術を『育成事業』から『成長事業』に引き上げるタイムラインについて、現在の見通しを教えてください」
- 「複数のコンプライアンス問題を受けて、組織風土改革にどのように取り組んでいるか教えてください」
- 「防衛費増額の中で、IHIの防衛事業はどのような成長を見込んでいますか。新卒が防衛事業に関わるキャリアパスについても教えてください」
まとめ
IHIの有報(2025年3月期)が示す「この会社が賭けているもの」は以下の3つです。
- 航空エンジン: 利益1,227億円は連結の約85%。前期の赤字1,028億円からV字回復し、「成長事業」の筆頭
- アンモニア燃焼技術: 「世界をリードする位置」にあり、碧南火力で燃料比20%達成。「育成事業」として集中投資
- 防衛・宇宙事業: 政府の防衛力強化方針を追い風に拡大。航空エンジンとの技術シナジーを活用
「重工業の老舗メーカー」というイメージとは裏腹に、IHIは航空エンジンが利益の大半を稼ぐ先端テクノロジー企業です。ROE26.3%の高収益は航空エンジン問題の影響剥落が大きいものの、アンモニア燃焼技術や防衛・宇宙という将来の成長ドライバーも有しています。
一方で、航空エンジン1セグメントへの利益集中リスクと、複数のコンプライアンス問題は見逃せないポイントです。
有報の数字で「企業の本当の姿」を掴み、面接での差別化に活かしてください。
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※本記事は有価証券報告書の公開情報に基づく分析であり、特定の企業への就職を推奨するものではありません。投資判断を目的とした情報提供でもありません。就職活動における企業研究の一助としてご活用ください。