| この記事でわかること |
|---|
| 1. 五大商社の利益構造の違い──「資源の三井」「非資源の伊藤忠」の実態 |
| 2. 各社が何に賭けているか──投資戦略の比較で見える未来の方向性 |
| 3. 自分のキャリア志向に合う商社を見極める視点 |
有報の読み方がわからない方は有価証券報告書の読み方完全ガイドをご覧ください。記事中の専門用語は用語集で確認できます。
「商社」と一括りにされがちですが、有報を開くと五大商社の中身は驚くほど異なります。
利益の60%を資源で稼ぐ三井物産と、80%を非資源で稼ぐ伊藤忠商事。純利益9,507億円の三菱商事と3,865億円の住友商事。穀物バリューチェーンに賭ける丸紅と、LNG権益に賭ける三井物産。
この記事では、五大商社の有価証券報告書を横並びで比較し、各社の稼ぎ方・賭け方・リスクの違いと自分に合う商社を見極める視点を提供します。
企業概要|数字で見る五大商社の全体像
まず、有報の基本データを並べてみましょう。
| 指標 | 三菱商事 | 伊藤忠商事 | 三井物産 | 住友商事 | 丸紅 |
|---|---|---|---|---|---|
| 純利益 | 9,507億円 | 8,803億円 | 7,898億円 | 3,865億円 | 4,543億円 |
| セグメント数 | 8 | 8 | 7 | 6 | 10 |
| 連結従業員数 | 約4.5万人 | 約11.5万人 | 約4.4万人 | 約7.8万人 | 約5.0万人 |
| 単体従業員数 | 4,477人 | 4,200人 | 約5,400人 | 約5,100人 | 約4,400人 |
| 平均年齢 | 42.4歳 | 42.2歳 | 約42歳 | 約43歳 | 約42歳 |
| 平均年間給与 | ─ | 約1,805万円 | 約1,550万円 | 約1,600万円 | 約1,550万円 |
出典: 各社 有価証券報告書 2025年03月期
数字を並べると、いくつかの特徴が見えてきます。
三菱商事が純利益で首位。伊藤忠は連結従業員数が最多で、コンビニ(ファミリーマート)を含むBtoC事業の大きさを反映しています。三井物産は連結約4.4万人と少数精鋭で大きな利益を出す構造。住友商事は利益規模では5位ですが、メディア・デジタル分野に独自のポジションがあります。丸紅はセグメント数10と最も多角的で、穀物・電力に特徴があります。
ただし、これらの数字だけでは各社の本質は見えません。次のセグメント比較で「何で稼いでいるか」を掘り下げます。
セグメント構造の比較|「何で稼いでいるか」が全く違う
セグメント別の純利益構成を見ると、五大商社の性格の違いが鮮明になります。
三菱商事|8セグメントの分散型ポートフォリオ
| セグメント | 純利益 | 構成比 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 金属資源 | 2,278億円 | 24.0% | -22.9% |
| 地球環境エネルギー | 1,986億円 | 20.9% | -16.8% |
| S.L.C.(ローソン等) | 1,850億円 | 19.5% | +80.1% |
| モビリティ | 1,124億円 | 11.8% | -20.5% |
| 食品産業 | 924億円 | 9.7% | 黒字転換 |
出典: 三菱商事 有価証券報告書 2025年03月期
三菱商事の特徴は分散です。上位3セグメントがそれぞれ20%前後を占め、特定事業への偏りが小さい。S.L.C.(ローソン・食品流通)の+80.1%成長は、KDDIとの共同経営による非資源強化の成果です。
詳しくは → 三菱商事の有報分析
伊藤忠商事|非資源80%、消費者に最も近い商社
| セグメント | 純利益 | 構成比 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 金属 | 1,784億円 | 20.3% | -21.1% |
| 機械 | 1,365億円 | 15.5% | +3.7% |
| その他(CITIC等) | 1,099億円 | 12.5% | +22.9% |
| 食料 | 851億円 | 9.7% | +28.4% |
| 情報・金融 | 832億円 | 9.5% | +22.7% |
| 繊維 | 738億円 | 8.4% | +173.3% |
出典: 伊藤忠商事 有価証券報告書 2025年03月期
伊藤忠の最大の特徴は非資源比率約80%。金属セグメント以外はすべて非資源で、食料・繊維・情報といった消費者に近い事業が利益を支えています。繊維の+173.3%はデサント完全子会社化の効果です。「利は川下にあり」という社是が数字に表れています。
詳しくは → 伊藤忠の有報分析
三井物産|資源60%、LNG・鉄鉱石の権益型ビジネス
| セグメント | 純利益 | 構成比 |
|---|---|---|
| 金属資源 | 約2,700億円 | 34% |
| エネルギー | 約2,000億円 | 25% |
| 機械・インフラ | 約1,300億円 | 16% |
| 生活産業 | 約600億円 | 8% |
| 次世代・機能推進 | 約500億円 | 6% |
出典: 三井物産 有価証券報告書 2025年03月期
三井物産は五大商社で最も資源依存度が高い(約60%)。LNG権益(モザンビーク・豪州・カナダ)と鉄鉱石(Vale権益)が利益の柱です。資源価格が上がれば最も恩恵を受け、下がれば最も影響を受ける構造です。
詳しくは → 三井物産の有報分析
住友商事|メディア・デジタルに独自の立ち位置
| セグメント | 純利益 | 構成比 |
|---|---|---|
| 金属資源 | 約1,600億円 | 41.4% |
| 資源・化学品 | 約700億円 | 18.1% |
| メディア・デジタル | 約650億円 | 16.8% |
| インフラ | 約400億円 | 10.4% |
| リビング関連 | 約300億円 | 7.8% |
出典: 住友商事 有価証券報告書 2025年03月期
住友商事の独自性はメディア・デジタルセグメント(純利益約650億円)。JCOM(約550万世帯)やT-Gaia(携帯販売最大手)など、他の商社にはない顧客接点を持ちます。一方、金属資源が41.4%と利益への依存度が高い点が課題です。
詳しくは → 住友商事の有報分析
丸紅|穀物×電力、10セグメントの最多角化
| セグメント | 純利益 | 構成比 |
|---|---|---|
| エネルギー・金属 | 約1,600億円 | 35.2% |
| 電力・インフラ | 約900億円 | 19.8% |
| 食料 | 約700億円 | 15.4% |
| アグリ事業 | 約350億円 | 7.7% |
| ライフスタイル | 約300億円 | 6.6% |
出典: 丸紅 有価証券報告書 2025年03月期
丸紅は食料+アグリ合計で約23%を占め、穀物バリューチェーンに最も深くコミットしています。さらに海外電力IPP事業12GW超は世界最大級の規模。10セグメントと最も多角的なポートフォリオですが、Gavilon買収時の減損という「賭けの失敗」の教訓も有報に記録されています。
詳しくは → 丸紅の有報分析
資源依存度の比較|景気感応度が全く違う
五大商社を理解する上で最も重要な軸が資源依存度です。これが各社の業績の振れ幅を決めます。
| 商社 | 資源依存度 | 非資源の強み | 景気感応度 |
|---|---|---|---|
| 三井物産 | 約60% | ヘルスケア・モビリティ | 最も高い |
| 住友商事 | 約60% | メディア・デジタル | 高い |
| 三菱商事 | 約45% | S.L.C.・食品・モビリティ | 中程度 |
| 丸紅 | 約35% | 穀物・電力IPP | 中程度 |
| 伊藤忠 | 約20% | 食料・繊維・情報・金融 | 最も低い |
出典: 各社 有価証券報告書 2025年03月期 セグメント情報から推計
この違いは就活生にとって「入社後にどんな景気局面を経験するか」に直結します。三井物産に入社すれば資源価格の上下に一喜一憂する事業環境で働き、伊藤忠に入社すれば消費者ビジネスの安定感の中で働く可能性が高い。どちらが良い悪いではなく、自分の志向との相性です。
投資の方向性比較|「何に賭けているか」が違う
各社の中期経営計画と有報の投資データから、未来への賭け方を比較します。
| 商社 | 賭けている領域 | 象徴的な投資 |
|---|---|---|
| 三菱商事 | エネルギートランジション | LNG Canada(1,400万トン/年)、Eneco(再エネ、約5,000億円) |
| 伊藤忠 | 川下・消費者ビジネス | ファミマ×リテールメディア、デサント完全子会社化 |
| 三井物産 | LNG・資源権益の深掘り | モザンビークLNG、IHH Healthcare(ヘルスケア) |
| 住友商事 | メディア・デジタル+非鉄金属 | JCOM事業転換、銅・ニッケル鉱山(EV時代対応) |
| 丸紅 | 穀物バリューチェーン+電力 | Gavilon統合深化、海外IPP 12GW超 |
出典: 各社 有価証券報告書 2025年03月期 および中期経営計画
注目すべきは、五大商社が全く異なる方向に賭けていることです。
三菱商事はGC2027で3年間に約4兆円の成長投資を計画。LNG Canadaへの巨額投資は「エネルギートランジションの橋渡し役」としてのポジションを狙うものです。
伊藤忠は消費者接点の強化に賭けています。ファミリーマートを広告メディア事業へ転換する構想は、コンビニを「リテールメディア」として再定義する試みです。
三井物産は資源権益の深掘りを続けています。モザンビークLNGは巨大プロジェクトですが地政学リスクも高く、まさに「ハイリスク・ハイリターン」の賭けです。
住友商事はEV時代の非鉄金属に着目。銅・ニッケルは電動化で需要が急増する金属であり、他の商社とは異なる切り口で資源事業を再定義しています。
丸紅は食料安全保障という長期テーマに賭けています。Gavilon統合で北米穀物取引のプラットフォームを手にし、世界の食料バリューチェーンの中に深く入り込む戦略です。
リスクの比較|「何を恐れているか」が違う
有報の「事業等のリスク」は、企業の経営課題が最も率直に書かれるセクションです。
| リスク領域 | 三菱商事 | 伊藤忠 | 三井物産 | 住友商事 | 丸紅 |
|---|---|---|---|---|---|
| 資源価格 | 原油1USD→約20億円 | 金属20%依存 | 利益60%が資源 | 金属41%依存 | 穀物市況変動 |
| 地政学 | LNG Canada建設リスク | 中国・アジア依存 | モザンビーク治安・サハリン2 | インドネシア政策 | 新興国電力規制 |
| 固有リスク | 4兆円投資の回収 | 減損実績(Dome等) | LNG座礁資産化 | DX投資リターン | Gavilon減損の教訓 |
| 気候変動 | Transform事業70%がLNG・原料炭 | 比較的影響小 | エネルギー転換加速 | 脱炭素移行コスト | グリーン投資の収益性 |
出典: 各社 有価証券報告書 2025年03月期 事業等のリスク
五大商社のリスクプロファイルで際立つのは、三菱商事と三井物産の「市況感応度」の具体的開示です。三菱商事は「原油1ドルの変動で約20億円、銅100ドルで約25億円、為替1円で約40億円」と具体的に記載しています。就活生にとっては、入社後の業績変動を肌感覚で理解できる重要なデータです。
丸紅の有報にはGavilon買収時の減損処理の経緯が記録されています。過去の失敗を隠さず開示している姿勢は、同社の「賭けの作法」を理解する上で参考になります。
キャリアマッチ比較|自分に合う商社はどこか?
各社の投資方針と組織データから逆算すると、「合う人」の像が浮かび上がります。
| 志向 | 最もマッチする商社 | 理由(有報根拠) |
|---|---|---|
| 資源・エネルギーの大型案件 | 三井物産 | 利益の60%が資源。LNG・鉄鉱石の権益ビジネスが中核 |
| 消費者に近いビジネス | 伊藤忠 | 非資源80%。食料・繊維・ファミマなど川下事業に強み |
| 幅広い事業領域を経験 | 三菱商事 | 8セグメント分散型。利益が特定事業に偏らない |
| メディア・デジタル | 住友商事 | JCOM・T-Gaiaなど独自の顧客接点を保有 |
| 食料・農業・インフラ | 丸紅 | 穀物バリューチェーン+海外電力12GW超 |
| 安定的な業績環境 | 伊藤忠 | 資源依存度20%で景気変動の影響が最も小さい |
| ダイナミックな業績変動 | 三井物産 | 資源依存度60%でハイリスク・ハイリターン |
従業員データから読む「会社の性格」
| 指標 | 三菱商事 | 伊藤忠 | 三井物産 | 住友商事 | 丸紅 |
|---|---|---|---|---|---|
| 平均年齢 | 42.4歳 | 42.2歳 | 約42歳 | 約43歳 | 約42歳 |
| 平均勤続年数 | 17年10ヶ月 | 18.0年 | 約18年 | 約18年 | 約17年 |
| 平均年間給与 | ─ | 約1,805万円 | 約1,550万円 | 約1,600万円 | 約1,550万円 |
出典: 各社 有価証券報告書 2025年03月期 従業員の状況
五大商社は平均年齢・勤続年数がほぼ同水準です。これは業界として長期雇用・年功的な人事制度がまだ根強いことを示しています。一方で、伊藤忠の平均年間給与が突出しているのは、同社の高い収益性と成果主義的な報酬体系の表れです。
ただし、社風や働き方は有報からは読み取れません。「組織の三菱」「人の三井」「商売の伊藤忠」といった文化的な違いは、OB/OG訪問やインターンシップで確認することをお勧めします。
面接で使える比較ポイント
五大商社を横断的に比較した知識は、面接で「業界理解の深さ」をアピールする最強の武器になります。
「なぜ三菱商事か」を聞かれたら
「五大商社の有報を比較して、御社の8セグメント分散型のポートフォリオに注目しました。三井物産は資源60%、伊藤忠は非資源80%と特定領域に強みを持つ一方、御社は上位3セグメントがそれぞれ20%前後で最もバランスが良い。多様な事業を経営する力が求められる御社で、幅広い産業を横断的に見る力を磨きたいと考えています。」
「なぜ伊藤忠か」を聞かれたら
「有報で五大商社の資源依存度を比較した結果、御社の非資源比率80%は群を抜いていました。繊維の純利益が前年比+173.3%とデサント効果で急伸していることからも、消費者ビジネスへの『利は川下にあり』の哲学が数字で裏付けられていると感じています。」
「なぜ三井物産か」を聞かれたら
「五大商社の中で御社は資源依存度約60%と最も高く、LNG権益や鉄鉱石のVale権益など世界規模のプロジェクトが利益の柱です。業績の振れ幅も大きいですが、その分スケールの大きい仕事に携われる環境に魅力を感じています。」
有報の比較データを使うことで、単なる「御社が好きです」を超えた根拠のある志望動機になります。
投資方針から逆算した「今から学ぶべき分野」
| 志望先 | 学ぶべき分野 | 根拠(有報データ) |
|---|---|---|
| 三菱商事 | エネルギートランジション | LNGカナダ等への大型投資、事業ポートフォリオ転換(2025年3月期) |
| 三井物産 | 資源ビジネス・プロジェクトファイナンス | LNG・鉄鉱石権益が利益の中核(2025年3月期) |
| 伊藤忠 | 消費者ビジネス・マーケティング | 非資源約80%、川下・消費者接点が強み(2025年3月期) |
| 住友商事 | メディア・デジタル | JCOM・SCSK等の独自ポートフォリオ(2025年3月期) |
| 丸紅 | 食料・農業・電力ビジネス | 穀物バリューチェーンと海外IPPが二大柱(2025年3月期) |
| 全社共通 | 英語力 | 海外駐在・グローバルプロジェクトが商社の本質 |
| 全社共通 | 会計・財務分析力 | 事業投資のROE・ROIC管理が商社の経営基盤 |
まとめ
五大商社の有報を比較すると、「商社」という一括りでは見えない各社の個性が浮かび上がります。
| 三菱商事 | 伊藤忠 | 三井物産 | 住友商事 | 丸紅 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 勝ちパターン | 分散×経営力 | 川下×消費者 | 資源権益×スケール | デジタル×非鉄 | 穀物×電力 |
| 資源依存度 | 約45% | 約20% | 約60% | 約60% | 約35% |
| 未来の賭け | LNG Canada+Eneco | ファミマ×メディア | モザンビークLNG | 銅・ニッケル+JCOM | Gavilon+海外IPP |
「自分はどの商社の賭けに共感するか」を考えることが、商社選びの第一歩です。
各社の有報をさらに深く読みたい方は、個別の分析記事をご覧ください。
- [三菱商事の有報分析]
- [伊藤忠の有報分析]
- [三井物産の有報分析]
- [住友商事の有報分析]
- [丸紅の有報分析]
- 有報の基本を押さえたい方 → [有価証券報告書の読み方完全ガイド]
本記事のデータは各社の有価証券報告書(2025年03月期・EDINET)に基づいています。投資判断を目的としたものではありません。企業の将来の業績を保証するものではなく、最新情報は各社の公式IR資料をご確認ください。