就活で「年収」は気になるデータです。有価証券報告書には平均年間給与が記載されており、企業間の比較ができます。
しかし、この数字を額面通りに受け取ると判断を間違えます。有報の年収データには「読み方のコツ」があり、それを知ると企業の人材構造が見えてきます。
有報全体の読み方を押さえたい方は、先に有価証券報告書の読み方完全ガイドをご覧ください。
「従業員の状況」とは?
有報の「従業員の状況」セクションには、以下の4つの基本データが記載されています。
| 項目 | 内容 | 読み方のポイント |
|---|---|---|
| 従業員数 | 正社員数(セグメント別) | 事業の人的規模がわかる |
| 平均年齢 | 全正社員の平均年齢 | 組織の年齢構成がわかる |
| 平均勤続年数 | 全正社員の平均勤続年数 | 定着率の目安 |
| 平均年間給与 | 基本給+賞与+残業代の合計 | 報酬水準の目安 |
どこに書いてあるか
有報の第一部「企業情報」の中の「従業員の状況」にあります。EDINETの目次から直接アクセスでき、通常1〜2ページで読めます。
重要なポイント: このデータは原則として単体(親会社のみ)の正社員が対象です。グループ全体の連結従業員数は別に記載されていますが、平均年間給与は単体のみです。
平均年間給与の読み方|5つの注意点
注意1: 「単体」と「連結」の違い
有報の平均年間給与は単体(親会社)の数字です。持株会社(ホールディングス)の場合、本社の少数精鋭だけが計上され、数字が高く出やすくなります。
| 企業 | 平均年間給与 | 単体従業員数 | 実態 |
|---|---|---|---|
| キーエンス | 2,279万円 | 2,793人 | 全員が高給の営業・開発職。ファブレスで工場なし |
| 三菱商事 | 1,939万円 | 5,601人 | 総合職中心。一般職を含んでもこの水準 |
| トヨタ自動車 | 895万円 | 70,710人 | 工場の製造職を含む。管理職に限れば大幅に上がる |
| デンソー | 811万円 | 44,898人 | 製造現場の従業員を含む |
出典: 各社 有価証券報告書 2025年03月期
キーエンスの2,279万円とデンソーの811万円を単純比較するのは意味がありません。従業員の構成が全く異なるからです。
注意2: 「平均年齢」とセットで見る
同じ年収水準でも、平均年齢が違えば意味が異なります。
| パターン | 平均年収 | 平均年齢 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 高年収×若い | 1,730万円 | 42.7歳 | 若くても高い報酬(伊藤忠商事) |
| 高年収×高い | 895万円 | 40.0歳 | 年功要素あり(トヨタ自動車) |
| 中年収×若い | 867万円 | 39.0歳 | 若手が多い成長組織(NTTデータ) |
平均年齢が若いのに年収が高い企業は、成果主義的な報酬体系である可能性が高いです。逆に平均年齢が高く年収も高い場合は、年功序列的な要素が強いかもしれません。
注意3: 「平均勤続年数」で定着率を読む
平均勤続年数は、従業員の定着率の目安になります。
| 企業 | 平均勤続年数 | 読み方 |
|---|---|---|
| デンソー | 22.0年 | 長期雇用型。終身雇用文化 |
| トヨタ | 16.2年 | 安定雇用。長期キャリア形成 |
| 任天堂 | 14.3年 | 安定した職場環境 |
| キーエンス | 12.1年 | 高給だが相対的に短い |
勤続年数が短い場合、2つの可能性があります。一つは離職率が高い(仕事がハード)、もう一つは企業が急成長して中途採用が多い。どちらかを判断するには、従業員数の推移や採用情報と合わせて見る必要があります。
注意4: 業界による水準の違い
平均年間給与は業界によって構造的に異なります。
| 業界 | 年収水準の目安 | 構造的な理由 |
|---|---|---|
| 総合商社 | 1,500〜2,000万円 | 少数精鋭+高い一人当たり利益 |
| コンサル | 1,000〜1,500万円 | 人材が直接の商品 |
| IT・通信 | 800〜1,200万円 | 技術職の市場価値が高い |
| 製造業(完成品) | 700〜900万円 | 製造職を含む。管理職は別水準 |
| 製造業(部品) | 600〜800万円 | 工場の比率が高い |
商社の年収が高いのは「良い会社だから」ではなく、少数の総合職で大きな利益を生むビジネスモデルだからです。製造業の年収が相対的に低いのは、製造現場の従業員を含むためです。
注意5: 年収の「持続性」を投資データで読む
最も重要な視点は「その年収水準が今後も維持されるか」です。これは有報の他のセクション──特に設備投資・R&D費・セグメント情報──と合わせて読むことでわかります。
| 確認ポイント | 読み方 |
|---|---|
| 利益率が高いか | 高利益率→高年収を維持する余力がある |
| 成長投資をしているか | 投資が続く→将来の利益成長が期待できる |
| 主力セグメントが伸びているか | 成長セグメント→年収上昇の可能性 |
キーエンスの2,279万円は、営業利益率51.9%という圧倒的な収益力に支えられています。この利益率が維持される限り、高年収も持続します。逆に利益率が低下傾向の企業は、将来的に報酬水準の引き下げリスクがあります。
→ キーエンスの有報分析で詳しく解説
「年収が高い=良い会社」ではない理由
年収だけで企業を選ぶことの限界を、有報のデータは教えてくれます。
| 視点 | 高年収企業の例 | 有報で見える実態 |
|---|---|---|
| 労働強度 | キーエンス(2,279万円) | 高給の裏に高い成果要求。勤続年数12.1年は商社より短い |
| 事業リスク | 三菱商事(1,939万円) | 資源価格変動で利益が大きく振れる。安定はしていない |
| 成長余地 | NTTデータ(867万円) | DC投資4,130億円で急成長中。将来の年収上昇余地あり |
| 報酬の質 | 任天堂(988万円) | プラットフォーム型で安定。残業少なく時間当たり報酬は高い |
就活では「年収の額」より「その年収を支えている構造」を理解することの方が重要です。投資が活発で利益率が高い企業は、入社後も報酬が上がり続ける可能性が高いです。
従業員情報を就活で使うテクニック
テクニック1: 年収の「構造」を面接で語る
「御社の有報で平均年間給与が{金額}、平均年齢が{年齢}と拝見しました。{業界平均との比較}から、{解釈}だと理解しています。」
具体例(キーエンスの場合):
「御社の有報で平均年間給与2,279万円に対し平均年齢36.1歳と拝見しました。若手から高い成果を求め、それに報いる報酬体系だと理解しています。営業利益率51.9%を支えるのは人材の質であり、その環境で成長したいと考えています。」
テクニック2: 2社の従業員構造を比較する
同業他社の従業員データを比較すると、企業の人材戦略の違いが見えます。
具体例(五大商社の比較):
| 商社 | 平均年間給与 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 1,939万円 | 43.0歳 | 18.4年 | 最高年収。長期勤続型 |
| 伊藤忠 | 1,730万円 | 42.7歳 | 17.7年 | 非資源強化で安定成長 |
| 三井物産 | 1,783万円 | 42.3歳 | 18.4年 | 資源依存度は業績変動に影響 |
| 住友商事 | 1,606万円 | 43.4歳 | 18.1年 | 堅実経営型 |
| 丸紅 | 1,595万円 | 42.2歳 | 17.3年 | 最も多角化。変革志向 |
出典: 各社 有価証券報告書 2025年03月期
年収だけ見ると三菱商事が最高ですが、各社のセグメント構成や投資方針と合わせて見ると、年収の「持続性」や「成長余地」の違いが見えてきます。
→ 五大商社の有報比較で詳しく解説
テクニック3: 「なぜこの年収なのか」を投資データで説明する
年収データ単体ではなく、投資データと結びつけて語れるのが有報を読む就活生の強みです。
「御社の平均年間給与{金額}は、R&D費{金額}(売上比{X}%)という積極的な技術投資に支えられた高い利益率の結果だと理解しています。」
まとめ
有報の年収データは「額面の高低」ではなく、「なぜその水準なのか」を読み解くことに価値があります。
| 見るべきデータ | わかること | 就活での使い方 |
|---|---|---|
| 平均年間給与 | 報酬水準の目安 | 業界内の位置づけを把握 |
| 平均年齢×年収 | 報酬体系の性格 | 成果主義 vs 年功序列の判断 |
| 平均勤続年数 | 定着率の目安 | 長期キャリア形成の可能性 |
| 年収×利益率 | 報酬の持続性 | 将来の年収成長余地を判断 |
年収ランキングだけを見て企業を選ぶのではなく、「その年収を支える事業構造」を有報で理解した上で判断する──これが有報を読む就活生ならではの企業選びです。
- 有報全体の読み方 → [有価証券報告書の読み方完全ガイド]
- 人的資本情報の読み方 → 人的資本情報の読み方ガイド
- 五大商社の比較 → [五大商社の有報比較]
本記事のデータは有価証券報告書(EDINET)に基づいています。投資判断を目的としたものではありません。