電通グループの有報分析 要点: 日本事業はマージン24.5%で4年連続過去最高を更新する一方、海外事業ののれん減損2,101億円でIFRS営業利益は赤字に。調整後営業利益1,762億円は前年比+7.8%で本業は堅調。新中計でM&A依存脱却とオーガニック成長回帰を目指す。(2024年12月期有報に基づく)
この記事のデータは電通グループの有価証券報告書(2024年12月期)に基づいています。 有報の読み方がわからない方は有価証券報告書の読み方完全ガイドをご覧ください。
電通グループは、収益1兆4,109億円・従業員約6.8万人を擁する日本最大のグローバル広告コミュニケーション企業です。 しかし有報を読むと、「日本の広告代理店」というイメージとは異なり、収益の約60%を海外事業が占めるグローバルマーケティング・テクノロジー企業の実態が浮かび上がります。
電通グループが賭けている3つの方向性:
- 海外事業の立て直しとOne dentsu統合: 赤字マーケット撤退、コスト年間500億円削減
- IGS(統合ソリューション): マーケティング×テクノロジー×コンサルの融合
- スポーツ&エンタメ事業のグローバル展開: 日本の強みを海外横展開
有報のリスク情報の読み方を知っておくと、本記事の内容がより深く理解できます。
電通グループのビジネスの実態|何で稼いでいるのか
セグメント情報とは、企業の事業部門ごとの売上高や利益を分けて示したものです。電通グループは日本・Americas・EMEA・APACの4地域で事業を展開しています。
| セグメント | 売上総利益 | 構成比 | セグメント利益 | マージン | オーガニック成長率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 4,667億円 | 39% | 1,141億円 | 24.5% | +4.0% |
| Americas | 3,346億円 | 28% | 751億円 | 22.5% | -4.1% |
| EMEA | 2,692億円 | 22% | 384億円 | 14.3% | +2.2% |
| APAC | 1,164億円 | 10% | 10億円 | 0.9% | -7.0% |
出典: 2024年12月期有報 セグメント情報。マージンはセグメント利益÷売上総利益
「日本最大の広告会社」のイメージ通り、日本事業は安定して高収益です。売上総利益・調整後営業利益とも4年連続で過去最高を更新し、マージン24.5%はグローバル広告会社の中でもトップクラスの水準です。テレビ広告に加え、インターネット広告やBX(ビジネストランスフォーメーション)・DX領域の成長が好調です。
一方、就活生が注目すべきは海外事業との収益格差です。Americasはオーガニック成長率-4.1%、APACは-7.0%と縮小傾向にあり、APACのマージンは0.9%とほぼ収支トントンです。円安やTag買収効果で表面上の売上は増えていますが、自力成長(オーガニック成長)は全体で-0.1%と実質横ばいにとどまっています。
もう一つ理解すべきポイントがあります。IFRS営業利益は-1,249億円の赤字ですが、調整後営業利益は1,762億円の黒字(前年比+7.8%)です。この乖離の主因は、海外事業ののれん減損2,101億円です。調整後営業利益とは、のれん減損や構造改革費用などの一時的要因を除いた本業の実力を示す指標で、こちらを見ると事業自体は成長していることがわかります。
電通グループは何に賭けているのか|投資と研究開発の方向性
賭け1: 海外事業の構造改革とコスト500億円削減
電通グループの最大の賭けは、過去のM&A偏重戦略の見直しと海外事業の立て直しです。2025年2月に発表した新中期経営計画(2025-2027年)では、以下の目標を掲げています。
| 指標 | 2024年度実績 | 2027年度目標 |
|---|---|---|
| オーガニック成長率 | -0.1% | 4% |
| オペレーティング・マージン | 14.8% | 16-17% |
| ROE | 赤字で算出不能 | 10%台中盤 |
| コスト削減 | ― | 年間最大500億円 |
出典: 2024年12月期有報 経営方針
具体的には、複数年赤字が続くマーケットの撤退・売却を2026年度中に完了する計画です。さらに東京とロンドンに分散していた本部機能を統合し、AIやアウトソーシングで徹底した効率化を図ります。
組織再編の真っただ中にある企業では、若手でも変革プロジェクトに関わるチャンスがあります。一方で、配属先の事業が整理対象になるリスクもあるため、入社前にどのマーケット・機能に配属される可能性があるか確認しておくことが重要です。
賭け2: IGS(インテグレーテッド・グロース・ソリューション)の深化
電通グループが提供する中核サービスは、マーケティング・テクノロジー・コンサルティングが融合した「インテグレーテッド・グロース・ソリューション(IGS)」です。単なる広告制作や媒体購入ではなく、顧客企業の持続的成長を実現する統合提案が軸となっています。
設備投資は256億円(前年比-11%)で、このうち日本が194億円(76%)を占めます。広告業は人的資本が主要な資産であり、製造業のような大型設備投資は不要です。R&D費は19億円(売上比0.1%)と少額です。これは電通総研(旧電通国際情報サービス)が中心であり、広告事業本体では「研究開発」ではなくクリエイティブやデータ分析への人的投資という形をとるためです。
テクノロジー企業やコンサルティング企業がAIに巨額投資して広告業界に参入する中、電通グループはAI・DX投資の動向を見ても分かるように、独自のデータ資産と顧客との長期的関係を武器にIGSの深化で差別化を図る戦略です。
賭け3: スポーツ&エンターテインメント事業のグローバル展開
新中計では、日本で培ったスポーツ&エンターテインメント事業をグローバルに展開し、非連続的な成長を目指すと明記しています。日本の広告会社の中でスポーツ権利ビジネスを最大規模で手がけてきた実績がありますが、東京オリンピック関連の独禁法違反問題という逆風もあります。有報ではこの事件に対する再発防止策17施策が2024年度に全て完了したと記載されていますが、控訴中である点も事実として記されています。
電通グループが自ら語るリスクと課題|PRでは絶対に出ない情報
有報のリスク欄には、就活サイトには載らない企業の本音が書かれています。電通グループの有報から、特に就活生が注目すべき3つのリスクを選びました。
リスク1: のれん減損の「時限爆弾」
のれん残高は約6,970億円で、総資産の約20%を占めています。取得原価(過去のM&Aで支払った対価に基づく金額)1兆2,074億円のうち、約42%(5,103億円)がすでに減損済みです。2024年12月期にも2,101億円の減損を計上しました。不振ビジネスの改善が進まなければ、残りの約7,000億円についても追加減損のリスクがあります。
ポイントとしては、「グローバル企業」の看板の裏にM&A統合の失敗という課題があるということです。海外事業の縮小・撤退が進む可能性を理解した上でキャリア選択をすべきです。
リスク2: テクノロジー企業・コンサルとの競争激化
有報のリスク欄には「メディアプラットフォームなど巨大プレーヤーの台頭やテクノロジー企業、コンサルティング企業等による巨額のAI投資が競争環境を激化させる」と明記されています。Google・MetaがAI広告最適化を自前で提供し、アクセンチュアやデロイトがマーケティング領域に参入する中、従来型の広告代理店モデルは構造的な転換を迫られています。
電通グループ自身が有報でこのリスクを認識している点は重要です。デジタルスキルやデータ分析力がないと、この業界で市場価値が下がる可能性があることを示唆しています。コンサルティング業界との比較も参考になります。
リスク3: コンプライアンスリスク
東京オリンピック・パラリンピック関連の独禁法違反被告事件について控訴中です。有報には改革17施策が全て完了したとの記載がありますが、「意識行動改革は2025年度より新たな体制で推進する」とあり、企業文化の変革はまだ途上であることがわかります。
あなたのキャリアとマッチするか
| 合う人 | 合わない人 |
|---|---|
| マーケ×テクノロジー×コンサルの掛け算に興味がある | 安定した環境を重視する |
| グローバルで早期に裁量を持ちたい | 純粋なクリエイティブ職のみを志望する |
| スポーツ・エンタメビジネスに情熱がある | コンプライアンスリスクを許容できない |
| 変革期の組織でダイナミックに成長したい | M&A・組織再編の不確実性を避けたい |
電通グループの投資方針がIGS(統合ソリューション)に向かっている以上、「広告を作りたい」だけでは物足りない可能性があります。マーケティング戦略の立案、データ分析、テクノロジー活用を含めた複合的なスキルを磨ける人にとってはキャリア成長の機会が豊富な環境です。
広告業界でのキャリア選択では、国内2位グループの博報堂DYとの比較も重要です。「グローバル×統合ソリューション」の電通と「国内基盤×生活者発想×多様な子会社文化」の博報堂DYという選び分けの視点は博報堂DYの有報分析記事で詳しく解説しています。
従業員データ
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 連結従業員数 | 67,667名(前期比-3,460名) |
| 日本 | 23,588名(35%) |
| Americas | 13,988名(21%) |
| EMEA | 14,712名(22%) |
| APAC | 11,903名(18%) |
| 平均年齢 | 44.9歳 |
| 平均勤続年数 | 14.1年 |
| 平均年間給与 | 約1,508万円 |
出典: 2024年12月期有報。平均年齢・勤続年数・給与は電通グループ(持株会社、131名)の数値。中核子会社の電通(単体)は約7,000名で平均年収は約1,340万円(2023年度有報参考値)
注意点として、有報の給与データは持株会社(131名)のものであり、実際に多くの就活生が配属される事業会社とは異なります。ただし、広告業界全体としてみても給与水準は高い部類に入ります。有報だけでは社内の雰囲気や働き方は分かりません。OpenWorkや就活会議等の口コミサイトと併用して、総合的に判断しましょう。
今から学ぶべき分野
電通グループの投資方針から逆算すると、以下の3つのスキルが市場価値を高めます。
- デジタルマーケティング×データ分析。IGSの核がデータ駆動型の統合提案である以上、Google Analyticsの基本操作、SQLやPythonの基礎を押さえておくと面接でのアピール材料になります
- 英語力。従業員の約65%が海外拠点に所属しており、グローバルキャリアを視野に入れるならTOEIC800点以上が目安です。海外事業の立て直しが進む中、英語力がある若手人材の需要は高まっています
- 経営戦略の基礎知識。のれんの概念、M&A後の統合(PMI)、ROEの意味を理解しておくと、電通グループの経営課題を深く語れるようになり、面接での議論に深みが出ます
面接で使える有報ポイント
面接で有報を活用する方法と合わせて、電通グループ固有のポイントを紹介します。
志望動機での活用
「御社の有報を拝見し、日本事業がオペレーティング・マージン24.5%と過去最高を更新している一方で、海外事業の構造改革を進められている点に注目しました。IGSの推進により、マーケティング・テクノロジー・コンサルの統合的な提案力を磨ける環境に魅力を感じ、志望いたしました。」
「調整後営業利益が1,762億円と前年比7.8%増で本業は着実に成長しているにも関わらず、IFRS営業利益が赤字になる構造を有報で知りました。この構造を理解した上で御社の成長性を評価しており、変革期に貢献したいと考えています。」
逆質問で使えるネタ
「新中期経営計画で2027年度にマージン16-17%を目標とされていますが、その達成に向けて新卒社員にはどのような役割が期待されますか?」
「有報でIGSの推進が掲げられていますが、マーケティング・テクノロジー・コンサルの融合を実現するために、入社後にどのようなスキル開発の機会がありますか?」
「海外売上比率が約60%ですが、若手社員のグローバルキャリアパスについて教えてください。」
有報のデータを引用して質問するだけで、企業研究の深さが伝わります。特にのれん減損の構造を理解した上で将来性を語れる就活生は、面接官の印象に強く残ります。海外売上比率ランキングも併せて確認しておくと、業界横断的な視点でアピールできます。
まとめ
電通グループの有報を読むと、「日本の広告代理店」という表のイメージの裏に、グローバル事業の構造改革という大きなテーマが横たわっていることがわかります。日本事業は安定成長を続け、調整後営業利益は過去最高水準ですが、海外事業ののれん減損リスクという「負の遺産」との向き合い方が今後の経営を左右します。変革期の組織で統合的なスキルを磨きたい人にとっては、挑戦しがいのある環境と言えるでしょう。広告業界を含む7業界の投資戦略の違いは業界比較|企業が賭けていることで横断的に分析しています。