農業の未来を変えるテクノロジー企業で働きたい。そう考えたとき、クボタの名前は自然に浮かぶでしょう。しかし有報を開くと、この会社がいま直面している現実も見えてきます。純利益19%減、営業利益率の低下傾向、そして「物量重視から収益性重視へ」という大転換の宣言。この記事を押さえれば、成長の踊り場にある企業をどう評価するか、根拠を持って語れるようになります。
クボタは、農業機械・建設機械・水環境インフラを世界規模で展開するメーカーです。売上高約3兆189億円、連結従業員52,503人。「命を支えるプラットフォーマー」を掲げ、食料・水・環境の3領域を一体として捉える企業です。

この記事のデータはクボタの有価証券報告書(2025年12月期)に基づいています。 有報の読み方がわからない方は有価証券報告書の読み方完全ガイドをご覧ください。
クボタのビジネスの実態|何で稼いでいるのか
セグメント構成|機械への集中がさらに鮮明に
クボタは「機械」と「水・環境」の2事業セグメントで構成されています。2025年12月期より社内組織をベースにセグメント構成が変更され、従来「全社」に含まれていた一部部門が各事業セグメントに移管されました。この再編により、設備投資・R&D費ともに機械事業への集中がより鮮明になっています。

| セグメント | 設備投資 | 構成比 | R&D費 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|
| 機械 | 1,537億円 | 85.5% | 1,035億円 | 93.8% |
| 水・環境 | 178億円 | 9.9% | 68億円 | 6.2% |
| その他・全社 | 約84億円 | 4.6% | ― | ― |
| 合計 | 1,798億円 | 100% | 1,103億円 | 100% |
出典: クボタ 有価証券報告書 2025年12月期 設備投資等の概要・研究開発活動
機械事業がR&D費の93.8%を占めるという構造は、前期(機械65.3%+全社28.7%の合算で94.0%)と実質的に同水準ですが、セグメント再編によって「機械事業こそがクボタのR&Dの中核」であることが組織上も明示されました。
売上推移|売上横ばい、しかし純利益は19%減
| 期間 | 売上高 | 当期純利益 |
|---|---|---|
| 4期前 | 約2兆1,968億円 | 約1,748億円 |
| 3期前 | 約2兆6,770億円 | 約1,565億円 |
| 2期前 | 約3兆207億円 | 約2,385億円 |
| 前期 | 約3兆163億円 | 約2,304億円 |
| 当期(2025年12月期) | 約3兆189億円 | 約1,867億円 |
出典: クボタ 有価証券報告書 2025年12月期 連結財務諸表(IFRS)
売上高は3兆円台を維持していますが、当期純利益は約2,304億円から約1,867億円へ19%減少しました(EPS: 197.61円→163.44円)。有報の経営方針セクションでは、「営業利益率が低下傾向にある」「製品・事業の競争力の低下や、固定費の高止まり」が背景にあると自ら分析しています。さらに「ヒット商品の創出が少なくなっていること」も課題として挙げており、成長から収益性の回復へフェーズが変わったことが読み取れます。
クボタは何に賭けているのか|投資と研究開発の方向性

賭け1: 経営体制改革と「両利きの経営」
有報の経営方針セクションで最も目を引くのは、新中期経営計画(2026-2030)の方向性です。クボタは「従来の物量重視から転換して収益性や資本効率を重視した経営への質的改善」を明確に宣言しています。
具体的な施策は3つあります。
1つ目は、チーフオフィサー制の導入(2026年1月)です。全社経営の視点から各事業を横断的に支援し、意思決定のスピードアップを図る体制です。各チーフオフィサーが機械事業・水環境事業それぞれにグローバルに責任を持ちます。
2つ目は、「両利きの経営」の推進です。「既存事業の深化」と「新規事業の探索」を両立させる方針で、新規事業探索の方法論を学ぶ研修の強化、挑戦する風土の醸成、M&Aによる事業の獲得、農業ソリューション本部を通じた新規事業開拓に取り組みます。
3つ目は、キャッシュの効率的な活用です。前中期経営計画ではBCPや増産対応で設備投資が集中し、固定費として財務を圧迫しました。設備投資額が前期の2,154億円から当期1,798億円へ減少しているのは、この「厳格なコントロール」の表れと読み取れます。
R&D費や設備投資の読み方をもっと詳しく知りたい方は設備投資・R&Dの読み方ガイドをご覧ください。
賭け2: 機械事業の成長3本柱
有報では、機械事業がめざす姿を「小さい機械で、大きな仕事を」と表現しています。当面はディーゼルエンジンへの需要が旺盛に続くとみており、成長の柱として3つの事業を位置づけています。
第1の柱は「建設機械事業」です。小型から市場領域を拡大し、ITやAIの技術をフル活用しながら、より高いパフォーマンスの仕事ができる機械の実現をめざしています。
第2の柱は「インド『発』事業」です。トラクタの新製品導入と小売金融事業の展開で、インド市場を起点とした成長を図ります。
第3の柱は「ライフサイクルサポート事業」です。販売後のアフターマーケットを収益基盤として強化する方針です。
賭け3: スマート農業・自動運転・カーボンニュートラル技術
R&D費1,103億円から生まれた開発成果のうち、就活生が押さえるべきものを3つ紹介します。
1つ目は、KSAS(クボタスマートアグリシステム)の進化です。生成AIを活用した「KSAS AIチャット機能」を開発し、営農に関する質問への回答、対話履歴の確認、マニュアルのPDF表示などを実現しました。さらに、人工衛星で撮影した画像から農作物の生育状態をマップ上に表示する「衛星リモートセンシング機能」も追加されています。
2つ目は、GS(直進自動操舵)機能搭載製品のラインアップ拡充です。トラクタ・コンバイン・田植機・乗用全自動野菜移植機にGNSS(衛星測位システム)を活用した自動直進機能を搭載。RTK-GNSSアンテナにより誤差±3cm程度の精度で直進作業が可能です。
3つ目は、大阪・関西万博で出展した無人運転水素燃料電池トラクタ(コンセプトモデル)です。農業だけでなく土木・建設作業の無人化とグリーン化に向けた研究開発として、汎用プラットフォームロボットのコンセプトモデルも出展しています。
水・環境分野では、GX形ダクタイル鉄管の大口径化(呼び径500-1000)により接合時間を従来の約1/2に短縮したほか、四足歩行ロボットによるごみ焼却施設の自動巡視点検技術を開発し、ダイオキシン管理区域の点検箇所の64%を自動化しています。
クボタが自ら語るリスクと課題|PRでは絶対に出ない情報

リスク1: 純利益減少と収益性の構造的課題
最も注目すべきリスクは、クボタが自ら経営課題として開示している収益性の低下です。有報では「営業利益率が低下傾向にあり」「製品・事業の競争力の低下や、固定費の高止まりなどが挙げられます」と明記されています。
さらに「ヒット商品の創出が少なくなっていることも大きな課題」「社会の要請に応えるソリューションビジネスが十分に生み出せておらず」とも述べており、売上の成長が為替の影響や値上げ効果に支えられた部分が大きかったことを認めています。
リスク2: 米国関税政策と国際的事業展開リスク|有報が「逆風」と明記
有報の外部環境認識のなかで、「短期的には米国の関税政策といった逆風はあるものの」と明記されています。クボタは海外に多数の製造・販売・金融子会社を持ち、国際貿易政策による予期せぬ関税の変化、各国法規制の変化、地政学リスクが事業に影響する可能性があります。
リスク3: 景気循環と為替変動|生産財メーカーの宿命
クボタの製品は生産財・資本財が中心のため、民間設備投資、建設投資、公共投資の動向に大きく左右されます。欧米では小型トラクタ等の売上が個人消費や住宅建設投資に連動するため、景気後退局面での影響が懸念されます。
為替変動も重大なリスクです。有報では「通常は他の通貨に対して円高になれば経営成績にマイナスの影響」と明記。地産地消やデリバティブで対応していますが、著しい為替変動には対応しきれない可能性があります。
有報のリスク情報の読み方は事業リスクの読み方ガイドで詳しく解説しています。
あなたのキャリアとマッチするか
クボタの方向性に合う人・合わない人
合う人
- 食料・水・環境の社会課題にテクノロジーで貢献したい(GMB2030「命を支えるプラットフォーマー」)
- 農業DX・自動運転・AI技術に興味がある(KSAS AIチャット・GS直進自動操舵・水素燃料電池トラクタ)
- グローバルに働きたい(連結52,503人体制、北米・インドを中心に事業展開)
- 変革期の大企業で経営改革を体験したい(チーフオフィサー制導入・両利きの経営)
従業員データ
| 指標 | 数値 | 読み方 |
|---|---|---|
| 連結従業員数 | 52,503人 | コマツ(約6.5万人)より小さいが、農業機械メーカーとしては世界最大級 |
| 単体従業員数 | 15,897人 | 連結の約30%。海外子会社の人員が多い |
| 平均年齢 | 39.9歳 | 製造業としてはやや若め |
| 平均勤続年数 | 14.3年 | 長期雇用型。前期(13.5年)から上昇 |
| 平均年間給与 | 約861万円 | 製造業では高水準。前期(約825万円)から上昇 |
出典: クボタ 有価証券報告書 2025年12月期 従業員の状況
平均年間給与が約825万円から約861万円へ上昇している点は、人的資本への投資姿勢がうかがえます。平均勤続年数も13.5年から14.3年に伸びており、離職率の低さを示しています。
今から学ぶべき分野
| 分野 | 根拠(有報) | 具体的アクション |
|---|---|---|
| AI・生成AI | KSAS AIチャット機能の開発、AI活用・DXによる業務刷新(2025年12月期) | 生成AIの基礎学習、プロンプトエンジニアリング入門 |
| ロボティクス・自動運転 | GS直進自動操舵のラインアップ拡充、汎用プラットフォームロボット開発(2025年12月期) | 画像認識・衛星測位の基礎学習、ROSなど自律走行フレームワークの入門 |
| 電動化・水素技術 | 無人運転水素燃料電池トラクタの万博出展(2025年12月期) | モータ制御・バッテリマネジメントの基礎、水素エネルギーの知識 |
| 英語力 | グローバル52,503人体制、インド「発」事業の展開(2025年12月期) | TOEIC730点以上を目標に、技術英語にも慣れる |
面接で使える有報ポイント
志望動機での活用
「御社の有報で、新中期経営計画において『物量重視から収益性・資本効率重視への質的改善』を掲げていることを知りました。売上3兆円規模を維持しながら経営の質を高めるフェーズにある点に、成長と変革の両方を経験できる環境だと感じています。」
逆質問で使えるネタ
「有報で『両利きの経営』として新規事業の探索にも本格的に取り組むと記載がありました。農業ソリューション本部など新規事業の領域で、新卒にはどのようなキャリアパスを想定されていますか?」
コマツとの比較で使える視点
「コマツが建設機械・鉱山機械に特化してICT施工に強みを持つのに対し、御社は農業機械を起点に食料・水・環境を一体で捉えている点が異なると感じました。特にKSAS AIチャット機能のような生成AI活用は、農業分野ならではのソリューションだと考えています。」
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 勝ちパターン | 農業機械の世界的ポジション × 食料・水・環境の3領域を一体で展開 |
| 未来の賭け | 新中計で「物量重視→収益性重視」に転換。建設機械・インド・アフターマーケットの3本柱で成長を再加速 |
| 最大のリスク | 純利益19%減と営業利益率低下 × 米国関税政策の逆風 × 景気循環・為替変動 |
| 合う人材像 | 食料・水・環境の社会課題を技術で解決したいグローバル志向の人。変革期を楽しめる人 |
売上3兆円を維持しながらも純利益が19%減少した現実を、クボタは有報のなかで率直に開示しています。「ヒット商品の創出が少なくなっている」「固定費の高止まり」と自己分析した上で、チーフオフィサー制と両利きの経営で再起を図る。この正直さと変革への意志が、有報から読み取れるクボタの現在地です。
本記事のデータは有価証券報告書(2025年12月期・EDINET docID: S100XR0M)に基づいています。投資判断を目的としたものではありません。企業の将来の業績を保証するものではなく、最新情報はクボタの公式IR資料をご確認ください。