「日本事業は過去最高、海外は3,961億円の減損」──同じ電通グループでも、どちらの電通で働くかでキャリアは全く違うものになります。変革期に飛び込むのか、安定した日本事業で力をつけるのか。この記事を押さえれば、根拠を持って語れるようになります。
「日本の広告代理店」のイメージとは裏腹に、電通グループの収益の約60%は海外事業です。2025年12月期の有報を読むと、その海外事業でのれん減損3,961億円という衝撃的な数字が計上され、個別決算では債務超過に陥り、2年連続無配が決まった──という厳しい現実と、日本事業がマージン24.4%で5年連続過去最高を更新し続けているという「光と影」の両面が浮かび上がります。

この記事のデータは電通グループの有価証券報告書(2025年12月期・EDINET)に基づいています。 有報の読み方がわからない方は有価証券報告書の読み方完全ガイドをご覧ください。 広告業界全体の比較分析は広告業界を有報で比較|電通×博報堂DYの収益構造と戦略の違いをご覧ください。
有報のリスク情報の読み方を知っておくと、本記事の内容がより深く理解できます。
電通グループのビジネスの実態|何で稼いでいるのか
電通グループは日本・Americas・EMEA・APACの4地域で事業を展開しています。

出典: 2025年12月期有報。マージンは調整後OP÷売上総利益。全社費用△574億円は含まず
日本事業は売上総利益・調整後営業利益ともに5年連続で過去最高を更新し、マージン24.4%はグローバル広告会社の中でもトップクラスです。インターネット広告、BX(ビジネストランスフォーメーション)、DX領域の成長が牽引し、11四半期連続の成長を達成しています。
一方、海外3地域は全てオーガニック成長がマイナスです。Americasは-3.0%、EMEAは-1.8%、APACは-6.8%。全体のオーガニック成長率は+0.5%にとどまっています。
IFRS赤字△2,892億円と調整後黒字1,725億円の乖離
IFRS営業損失は△2,892億円という巨額の赤字ですが、調整後営業利益は1,725億円の黒字です。この乖離の主因は以下の通りです。
| 調整項目 | 金額 |
|---|---|
| 調整後営業利益 | 1,725億円 |
| のれん・無形資産の減損 | △4,026億円 |
| 構造改革費用 | △330億円 |
| 買収関連無形資産の償却 | △253億円 |
| その他 | △9億円 |
| IFRS営業損失 | △2,892億円 |
出典: 2025年12月期有報 調整後指標の調整表
IFRS営業損失 △2,892億円(赤字)と調整後営業利益 1,725億円(黒字)の違いを説明できるだけで、面接官の印象は大きく変わります。本業は黒字を維持しており、赤字の主因は過去のM&Aで積み上げたのれんの評価見直し(減損)です。
電通グループは何に賭けているのか|投資と研究開発の方向性

賭け1: 海外事業の抜本改革|のれん減損3,961億円後の再出発
電通グループの最大の賭けは、過去のM&A偏重戦略の清算と海外事業の立て直しです。
| 構造改革の進捗 | 内容 |
|---|---|
| のれん減損 | 計3,961億円(2025年12月期)。Americas・EMEAが対象 |
| のれん残高 | 6,970億円→3,201億円に半減 |
| 人員削減 | 3,400人計画のうち2,100人実行済 |
| 法人数削減 | 2021年の1,000超→2026年1月時点で約半分 |
| コスト削減 | 2027年に年間500億円目標。750施策のうち80%超が実行中/済 |
| 赤字マーケット | 中国・オーストラリアを黒字転換済。2026年度に赤字マーケットゼロ目標 |
出典: 2025年12月期有報
中期経営計画(2025-2027年)では、2027年にマージン16%を目標としていますが、一部の主要財務目標は取り下げ・再設定が予定されています。
組織再編の真っただ中にある企業では、若手でも変革プロジェクトに関わるチャンスがあります。一方で、配属先の事業が整理対象になるリスクもあるため、入社前にどのマーケット・機能に配属される可能性があるか確認しておくことが重要です。
賭け2: IGS(統合ソリューション)とAI内部投資
電通グループの中核サービスは、マーケティング・テクノロジー・コンサルティングが融合した「IGS(インテグレーテッド・グロース・ソリューション)」です。3年間で450億円の内部投資計画を策定し、2025年にはdentsu.Connect等のデータ&テクノロジーツール開発やAI導入に80億円を投資しました。
海外メディア事業は2年連続でプラスのオーガニック成長を達成しており、海外3地域の売上総利益の過半を占めるメディア事業を付加価値向上の柱に据えています。米国のCXM事業(Merkle等)は2023年以降大きなマイナス成長が続いていましたが、底打ちの兆しが見え、2026年度にはプラス成長回帰を見込んでいます。
R&D費は25億円(売上比0.2%)と少額ですが、広告業は人的資本が主要な資産であり、AI・データ分析への投資は人件費やツール開発費として計上される構造です。設備投資は269億円です。
賭け3: 日本事業の底力+スポーツ&エンタメのグローバル展開
日本事業はグループの屋台骨として圧倒的な安定感を見せています。売上総利益4,956億円、調整後営業利益1,211億円は5年連続の過去最高。オーガニック成長率+6.2%、11四半期連続成長という実績は、海外事業の苦戦を補って余りある底力です。
さらに、日本で培ったスポーツ&エンターテインメント事業のグローバル展開を2025年度から本格開始。2026年度も大規模スポーツイベントのビジネス機会が複数あり、将来の成長柱として育成中です。
テクノロジー企業やコンサルティング企業がAIに巨額投資して広告業界に参入する中、電通グループは顧客との長期的関係とIGSの深化で差別化を図る戦略です。AI・DX投資の動向も参照してください。
電通グループが自ら語るリスクと課題|PRでは絶対に出ない情報

リスク1: 個別決算での債務超過と無配|2025-2026年度無配決定
2025年12月期の有報には「継続企業の前提に関する重要事象等」が記載されています。個別決算で関係会社株式評価損2,867億円と貸倒引当金繰入1,719億円を計上し、債務超過に陥りました。2025年度・2026年度とも無配が決定しています。
ただし、連結ベースでは自己資本比率11.7%(前年19.9%から低下)を維持し、グループ全体の資金残高・多様な資金調達手段から継続企業の前提に重要な不確実性はないと判断されています。格付けはR&IからAA-(長期)を維持しています。
リスク2: のれん残高3,201億円の追加減損リスク|累計減損8,845億円
のれん残高は3,201億円に半減しましたが、海外事業の回復が想定通り進まなければ追加減損の可能性があります。のれん残高3,201億円に加え、累計の減損額は約8,845億円に達しています。
面接で「グローバル企業だから志望」と言う前に、海外事業の法人半減・3,400人削減が進行中であること、個別決算で債務超過であることを把握しておきましょう。OB訪問等で具体的な配属先の見通しを確認することが重要です。
リスク3: 独禁法有罪判決の確定とコンプライアンスリスク|2025年12月最高裁棄却
東京オリンピック・パラリンピック関連の独禁法違反被告事件について、2025年12月に最高裁が上告を棄却し、有罪判決が確定しました。再発防止17施策は2024年度に全て完了し、2025年1月からは「意識行動改革プロジェクト」を推進中ですが、ブランド・レピュテーションへの影響は続いています。
あなたのキャリアとマッチするか
合う人
- 変革期の組織でダイナミックに成長したい──海外事業の構造改革が進行中
- マーケ×テクノロジー×コンサルの掛け算に興味がある──IGS戦略
- 日本事業の安定成長基盤でキャリアを積みたい──マージン24.4%の高収益環境
- スポーツ・エンタメビジネスのグローバル展開に情熱がある
合わない人
- 財務的安定を最優先 → NTTやJR東日本
- コンプライアンスリスクを許容できない → 博報堂DY
- M&A・組織再編の不確実性を避けたい → サイバーエージェント
広告業界でのキャリア選択では、「グローバル×統合ソリューション」の電通と「国内基盤×生活者発想」の博報堂DYという選び分けが重要です。博報堂DYの有報分析記事で詳しく比較しています。
従業員データ
| 項目 | 数値(2025年12月期) |
|---|---|
| 連結従業員数 | 67,454名(前期比-648名) |
| 日本セグメント | 約24,000名 |
| Americas | 約14,000名 |
| EMEA | 約14,000名 |
| APAC | 約12,000名 |
| 持株会社(電通グループ) | 135名 |
| 持株会社 平均年齢 | 45.0歳 |
| 持株会社 平均勤続年数 | 14.3年 |
| 持株会社 平均年間給与 | 約1,596万円 |
出典: 2025年12月期有報。平均年齢・給与は電通グループ(持株会社・135名)の数値。中核子会社の株式会社電通とは異なる
注意: 有報の給与データは持株会社(135名)のものであり、実際に多くの就活生が配属される事業会社(株式会社電通等)とは異なります。ただし広告業界全体としてみても給与水準は高い部類です。
今から学ぶべき分野
- デジタルマーケティング×データ分析。IGSの核がデータ駆動型の統合提案である以上、SQL・Pythonの基礎を押さえておくと面接でのアピール材料になります
- 英語力。従業員の約65%が海外拠点に所属しており、グローバルキャリアを視野に入れるならTOEIC800点以上が目安
- 経営戦略の基礎知識。のれんの概念、M&A後の統合(PMI)、調整後営業利益の意味を理解しておくと、電通グループの経営課題を深く語れます
面接で使える有報ポイント
面接で有報を活用する方法と合わせて、電通グループ固有のポイントを紹介します。
志望動機での活用
「御社は日本事業が過去最高の成長を続ける一方で、海外事業では過去のM&A戦略を清算する大きな構造改革の真っただ中にあると理解しています。私はこの変革期だからこそ若手にも裁量が広がると考えており、IGSの推進によるマーケティング・テクノロジー・コンサルの統合的な提案力を磨きたいと考え志望いたしました。」(2025年12月期有報)
「御社の有報を拝見し、IFRS上は赤字に見えるものの、本業の調整後営業利益は黒字を維持している構造を理解しました。のれん減損はM&A偏重からオーガニック成長への転換の過程であり、この転換を推進する組織で貢献したいと考えています。」(2025年12月期有報)
逆質問での活用
「中期経営計画で2027年度にマージン16%を目標とされていますが、一部財務目標を再設定予定とのこと。新卒社員に期待される役割は変化していますか?」
「有報でIGSの推進と3年450億円の内部投資が掲げられていますが、dentsu.Connectなどのツール開発に若手が関わる機会はありますか?」
「日本事業が11四半期連続成長されている中、インターネット広告とBX・DX領域のどちらが今後の成長ドライバーとして重視されていますか?」
のれん減損の構造を理解した上で将来性を語れる就活生は、面接官の印象に強く残ります。「赤字」の見出しに惑わされず、調整後営業利益で本業の実力を見抜いていることを示しましょう。
海外売上比率ランキングも併せて確認すると業界横断的な視点でアピールできます。
まとめ
| 項目 | 電通グループの特徴 |
|---|---|
| 財務状況 | 収益1兆4,352億円・調整後OP 1,725億円(黒字)だがIFRS △2,892億円(赤字)(2025年12月期) |
| 稼ぎ頭 | 日本事業(マージン24.4%・5年連続過去最高・オーガニック+6.2%) |
| 最大の課題 | のれん減損3,961億円・個別債務超過・無配。海外M&A偏重戦略の清算が進行中 |
| 変革の進捗 | 法人数半減・3,400人中2,100人削減済・赤字マーケット黒字転換 |
| 最大のリスク | 追加減損リスク・独禁法有罪確定・一部中計目標の再設定 |
| キャリアの特徴 | 変革期のダイナミズム×日本事業の安定×グローバルネットワーク |
電通グループの有報を読むと、「日本の広告代理店」という表のイメージの裏に、海外M&A戦略の清算という大きなテーマが横たわっていることがわかります。日本事業は圧倒的な底力を見せていますが、のれん減損3,961億円・個別債務超過・無配という厳しい現実を直視した上で、自分のキャリアとのマッチを判断する必要があります。変革期の組織で統合的なスキルを磨きたい人にとっては、挑戦しがいのある環境です。
次のアクション: 同業他社と比較して判断したい方は広告業界の企業比較で電通グループと博報堂DYの戦略の違いを見比べてみてください。面接で有報データを使いたい方は有報を面接で使う方法で具体的な活用法を確認できます。
本記事のデータは株式会社電通グループの有価証券報告書(2025年12月期・EDINET)に基づいています。投資判断を目的としたものではありません。