この記事を読むと: 男女賃金格差の「数字」を「全労働者ベース」「正規雇用ベース」「3指標セット」の3軸で読み、自分の志向に合う”本当に女性が活躍できる企業”を見極められるようになります。
「女性が本当に活躍できる企業はどこか」──採用HPの「多様性推進」「ダイバーシティ&インクルージョン」というスローガンだけでは判断できません。2023年3月期から、上場企業は有報で「男女の賃金の差異」を開示することが義務化され、企業のジェンダー平等を数字で比較できるようになりました。2025年3月期の主要4社を横並びで読むと、全労働者ベースの格差はカプコン63.4%からキーエンス41.8%まで21.6ポイントの開きがあり、正規雇用ベースではカプコン82.8%からキーエンス42.2%まで40ポイント以上の差があります。同じ「上場企業」でも、ジェンダー平等の姿はまったく違います。
| あなたの志向 | まず見るべき企業 | 理由 |
|---|---|---|
| 改善目標と数値KPIの透明性を重視したい | 三菱商事 | 格差62.9%・女性管理職12.3%で4社最高水準。男性育休163.9%など3指標の開示姿勢が積極的 |
| 同職位の平等性と人的資本施策の充実を重視したい | 伊藤忠商事 | 全労働者58.4%だが同社IR資料の同職位比較約97%。施策が豊富 |
| 技術職比率が高くフラットな評価環境を重視したい | カプコン | 正規雇用ベース82.8%は4社最高。連結従業員75.6%が研究開発要員 |
| 成果主義で結果を出せば性別関係ない環境を重視したい | キーエンス | 全労働者41.8%は最大格差だが非正規ベースで111.3%と逆転 |
| 数値の絶対値より構造要因を読む視点を持ちたい | 4社全体 | 格差の主因は『同一労働の不平等』ではなく『管理職比率・職種構成の偏り』 |
このデータは各社の有価証券報告書(2025年3月期・EDINET)に基づいています。
本記事は、有報で男女の賃金の差異を構造化開示している主要4社(三菱商事・伊藤忠商事・カプコン・キーエンス)を対象にした業界横断比較です。全上場企業を網羅したランキングではありません。
有報の読み方がわからない方は有価証券報告書の読み方完全ガイドをご覧ください。

男女賃金格差は、次の3段階で読むと失敗しにくくなります。
| 見る順番 | 見るもの | わかること |
|---|---|---|
| 1 | 全労働者ベース | 雇用形態を含めた賃金構造全体の差 |
| 2 | 正規雇用/非正規雇用ベース | 雇用形態別の格差。正規ベースは職種構成・管理職比率の差を強く反映 |
| 3 | 3指標セット(格差・女性管理職比率・男性育休取得率) | 賃金面・キャリア面・育児参加文化を立体的に評価 |
以降のセクションでは、この3段階を順に追っていきます。
男女賃金格差ランキング|全労働者ベース TOP4
まず、有報の構造化データで開示されている主要4社を全労働者ベースで並べます。
| 順位 | 企業 | 全労働者 | 正規雇用 | 非正規雇用 | 女性管理職比率 | 男性育休取得率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | カプコン | 63.4% | 82.8% | 68.7% | 11.9% | 79.7% |
| 2 | 三菱商事 | 62.9% | 64.3% | 60.1% | 12.3% | 163.9% |
| 3 | 伊藤忠商事 | 58.4% | 59.2% | 60.9% | 9.0% | 96.0% |
| 4 | キーエンス | 41.8% | 42.2% | 111.3% | 非開示 | 72.9% |
出典: 各社 有価証券報告書 2025年03月期 従業員の状況(提出会社単体ベース)
カプコン63.4%・三菱商事62.9%が4社で最も格差が小さく、キーエンス41.8%が最大。ただし数字の大きさだけで判断するのは早い。
格差の数値は40-63%の範囲に分布しています。全労働者ベースの63.4%(カプコン)は「男性100に対し女性63.4」を意味し、数字が100%に近いほど格差が小さい状態です。ただしこの数字をそのまま「不平等の度合い」として読むのは間違いで、業種・職種構成・組織年齢層によって構造要因が大きく異なります。後段の「中身」セクションで深掘りします。
なお、キーエンスの非正規雇用ベース111.3%は4社の中で唯一の100%超え(女性が男性を上回る)状態です。雇用形態別の差異が他社と異質な構造になっており、これも組織モデルの特徴として読み解く必要があります。
正規雇用ベースで見ると景色が変わる
正規雇用ベースで並べ替えると、全労働者ベースとは異なる景色が浮かびます。
| 順位 | 企業 | 正規雇用 | 全労働者 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | カプコン | 82.8% | 63.4% | 正規ベースで4社最高。技術集約型組織の特徴 |
| 2 | 三菱商事 | 64.3% | 62.9% | 全労働者とほぼ同水準。長期雇用型組織モデル |
| 3 | 伊藤忠商事 | 59.2% | 58.4% | 同職位比較では約97%(IR資料) |
| 4 | キーエンス | 42.2% | 41.8% | 成果主義型。若い組織構成と職種差が反映 |
出典: 各社 有価証券報告書 2025年03月期 従業員の状況(提出会社単体ベース)
カプコンの正規雇用82.8%は「研究開発要員が連結従業員の75.6%を占める技術集約型組織」が背景にある。
正規雇用ベースで見ると、カプコンが82.8%と4社で最も格差が小さくなります。ゲーム業界の開発職は男性比率が高い傾向がありますが、カプコンの場合は連結従業員の75.6%が研究開発要員という技術集約型組織であり、職種が均質に近い分、正規雇用ベースの格差が小さく出ています。
一方キーエンスは正規雇用ベースでも42.2%で4社最大の格差です。平均年齢34.8歳・平均勤続年数11.1年と若い組織構成、平均年収2,039万円という成果主義的な報酬体系が背景にあり、職種選択や成果による個人差が大きく出る構造です。
業界による「標準」が違う
男女賃金格差は、業界・組織モデルによって「普通」の水準が異なります。
| 業界・組織モデル | 全労働者ベースの目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 総合商社(長期雇用型) | 55-65% | 総合職/事務職/一般職の構成比、管理職の男女比、長期勤続による職階差 |
| ゲーム・ITサービス | 55-85% | 技術職・開発職の男女比、若い組織構成、職種別の評価制度 |
| FA機器・成果主義企業 | 40-60% | 成果主義による個人差、職種選択の自由度、勤続による差 |
キーエンスの41.8%は成果主義型企業としては妥当な水準ですが、組織モデルが他の3社と質的に異なるため、単純比較ではなく構造要因とセットで読む必要があります。

格差の「中身」|数字だけで判断できない構造要因
伊藤忠の事例|全労働者58.4%、同職位約97%
伊藤忠商事のデータは、格差の構造を最もよく示す事例です。
| 比較基準 | 女性/男性比率 | 出典 |
|---|---|---|
| 全労働者 | 58.4% | 有報 2025年03月期 従業員の状況 |
| 正規雇用 | 59.2% | 有報 2025年03月期 従業員の状況 |
| 非正規雇用 | 60.9% | 有報 2025年03月期 従業員の状況 |
| 同職位比較 | 約97% | 同社IR資料・統合レポート(参考値) |
全労働者で58.4%、同職位で約97%──格差の主因は「同一労働の不平等」ではなく「管理職と総合職に占める女性比率の偏り」だと数字が示している。
全労働者ベースでは58.4%ですが、同社IR資料の同職位比較では約97%とほぼ同等とされています。つまり「同じ仕事をしているのに女性の給与が低い」のではなく、「管理職や総合職に占める女性比率が低い」ことが格差の主因です。実際、女性管理職比率は9.0%にとどまっており、改善余地は管理職のパイプライン構築にあります。
ただし、同職位比較約97%は同社IR資料に基づく参考値で、EDINETの有報構造化データには含まれていません。面接の逆質問などで確認すると、より正確な対話ができます。
格差を生む3つの構造要因
| 要因 | 内容 | 影響が大きい業界 |
|---|---|---|
| 管理職比率の偏り | 管理職に男性が多く、平均賃金を押し上げる | 全業界共通 |
| 職種構成の偏り | 総合職/一般職/非正規の男女比、技術職・営業職の男女比 | 商社・製造業・ゲーム |
| 勤続年数の差 | 育児離職等で女性の平均勤続年数が短い | 全業界共通 |
例えば、4社の女性管理職比率を並べると、三菱商事12.3%>カプコン11.9%>伊藤忠9.0%>キーエンス非開示 となります。管理職パイプラインの太さが、長期的な賃金格差解消の鍵を握っていることが分かります。
キーエンスの41.8%が示すもの
キーエンスの全労働者ベース41.8%は4社の中で最も大きな格差です。一方で、非正規雇用ベースでは111.3%と女性が男性を上回る逆転構造になっています。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 平均年収 | 2,039万円 |
| 平均年齢 | 34.8歳 |
| 平均勤続年数 | 11.1年 |
| 全労働者の格差 | 41.8% |
| 正規雇用の格差 | 42.2% |
| 非正規雇用の格差 | 111.3% |
出典: キーエンス 有価証券報告書 2025年03月期 従業員の状況
成果主義的な報酬体系、若い組織構成、職種選択の幅広さが、全労働者ベースの格差を大きく見せている可能性があります。同社は女性管理職比率を非開示としているため、構造要因の全容を有報だけで特定するのは困難です。面接の逆質問で「成果主義の中での性差解消の取り組み」を聞くと、組織の姿勢が見えてきます。
三菱商事|62.9%と3指標開示の積極性
三菱商事の全労働者ベースの格差は62.9%で、4社の中では最も格差が小さい水準です。女性管理職比率12.3%は商社の中で高水準で、男性育休取得率163.9%(複数年度にまたがる取得を含む)は、制度の活用が進んでいることを示しています。
平均年齢42.4歳・平均勤続年数17.8年という従業員構成は、長期雇用型の組織モデルを反映しています。格差62.9%は総合職/事務職/一般職の構成比や管理職比率の偏りを反映していますが、3指標すべてで具体的な数値開示が行われている点は、就活生にとって評価しやすい情報です。なお、女性管理職比率に関する将来目標(例: 同社統合レポート等で開示される中期目標)は別途IR資料・サステナビリティレポートで確認することが推奨されます。
3指標セットで読む|賃金格差×女性管理職×男性育休
男女賃金格差の数値だけでは企業の実態は見えません。以下の3指標をセットで確認すると、より正確な評価ができます。
| 指標 | わかること | 有報の記載場所 |
|---|---|---|
| 男女の賃金の差異 | 賃金面での男女格差 | 従業員の状況 |
| 女性管理職比率 | 女性のキャリアアップ環境 | 従業員の状況 |
| 男性育休取得率 | 育児参加への組織文化 | 従業員の状況 |
| 企業 | 賃金格差(全労働者) | 女性管理職比率 | 男性育休取得率 | 読み方 |
|---|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 62.9% | 12.3% | 163.9% | 3指標すべてで4社最高水準。開示姿勢が積極的 |
| 伊藤忠商事 | 58.4% | 9.0% | 96.0% | 同職位約97%・施策が充実。管理職パイプラインが改善余地 |
| カプコン | 63.4% | 11.9% | 79.7% | 正規ベース82.8%。技術職比率高くフラット |
| キーエンス | 41.8% | 非開示 | 72.9% | 成果主義型。構造要因の特定には追加情報が必要 |
女性管理職比率ランキングでは、より多くの企業の女性管理職比率を比較しています。
改善に向けた企業の取り組み
伊藤忠商事の人的資本施策(IR・統合レポートで開示)
伊藤忠は同社IR資料・統合レポート・サステナビリティレポートで以下の人的資本施策を開示しています(EDINET 有報の構造化開示ではなく、参考情報として記載)。
- 女性活躍推進委員会
- BX(ビジネスエキスパート)職への名称変更(2025年4月、旧「事務職」)
- 新・女性寮の設立(2025年3月)
- フェムテック支援(卵子凍結、不妊治療費補助)
- 男性育児休業の義務化(FY2024から)
- 4週間以上の育休取得推進(育児両立手当支給)
出典: 伊藤忠商事 公式IR資料・統合レポート(参考情報。具体内容は同社サイトで最新版を確認してください)
「事務職」を「BX(ビジネスエキスパート)職」に改称することで、職種名に伴うキャリアの天井を意識的に取り除こうとしている姿勢が読み取れます。
三菱商事の3指標一体開示
三菱商事は有報の「従業員の状況」セクションで男女賃金格差・女性管理職比率・男性育休取得率の3指標を一体で開示しており、4社の中で最も透明性の高い情報提示と言えます。女性管理職比率の中期目標値については同社統合レポート等で別途確認することが推奨されます。
人的資本開示ランキングでは、人的資本データの開示充実度で企業を評価しています。
男女賃金格差データの就活への活かし方
ESの志望動機に使う
男女賃金格差データは「この会社がジェンダー平等にどう向き合っているか」を構造的に語る根拠です。志望企業ごとの使い方を整理しました。
| 志望企業 | ESで使うなら | 面接で聞くなら |
|---|---|---|
| 三菱商事 | 格差62.9%・女性管理職12.3%・男性育休163.9%という3指標すべてが4社最高水準である開示姿勢に惹かれた | 女性管理職比率の中期目標と、達成に向けた具体的なパイプライン施策はどのようなものか |
| 伊藤忠商事 | 同職位約97%・BX職改称・男性育休義務化など、構造改革を進める人的資本施策の体系性に惹かれた | 女性管理職比率9.0%から目標水準への引き上げで、若手のキャリア機会はどう広がるか |
| カプコン | 正規雇用ベース82.8%という、技術職比率の高さがフラットな評価につながる組織モデルに惹かれた | 研究開発要員75.6%という構成の中で、若手が職種を横断する機会はどう設計されているか |
| キーエンス | 全労働者41.8%という最大格差を成果主義の構造として理解し、性差を超える評価軸の組織で挑戦したい | 成果主義の中で女性管理職比率を非開示にしている背景と、性差解消の取り組みを伺いたい |
具体例(伊藤忠商事の場合):
「御社の有報で男女の賃金の差異が全労働者ベースで58.4%、同社IR資料では同職位比較で約97%であることを確認しました。BX職への改称や男性育休義務化など、職種構成・管理職パイプラインから格差の構造要因にアプローチしておられる姿勢に共感しています。」
面接の逆質問に使う
男女賃金格差の数字を起点にすると、企業ごとに踏み込んだ問いが立てられます。
三菱商事の面接──「ダイバーシティの取り組みについて」と問われたとき
「有報で女性管理職比率12.3%・男性育休163.9%という4社中最高水準の開示を拝見しました。女性管理職比率の中期目標と、目標達成に向けた具体的なパイプライン施策、若手女性社員が管理職候補として育成されるルートはどのように設計されているのでしょうか?」
伊藤忠商事の面接──「女性活躍推進について」と問われたとき
「全労働者58.4%・同職位比較約97%という構造を、職種・管理職パイプラインの課題として把握しておられると理解しています。BX職への改称や男性育休義務化など制度面の改革が進む中で、女性管理職比率9.0%を目標水準まで引き上げるための具体的な取り組みについて伺いたいです。」
カプコンの面接──「ジェンダー平等の組織文化について」と問われたとき
「正規雇用ベースで82.8%と4社で最も格差が小さく、研究開発要員75.6%という技術集約型組織が背景にあると理解しています。技術職に占める女性比率と、女性管理職11.9%の今後の引き上げ方針について伺えますか?」
キーエンスの面接──「成果主義の中での性差解消について」と問われたとき
「全労働者41.8%という格差は成果主義型組織の特徴と認識していますが、女性管理職比率が非開示である背景と、成果主義の中で性差を解消する具体的な取り組みについて教えていただけますか?」
注意点
| NG | OK |
|---|---|
| 「御社は格差が大きいですね」 | 「格差の構造要因と改善方針を教えてください」 |
| 数字だけで企業を否定する | 改善への取り組み姿勢を確認する |
| 他社と単純比較して批判する | 業界・組織モデルの特性を踏まえたうえで質問する |

まとめ
男女賃金格差ランキングは、企業の「言葉」ではなく「数字」でジェンダー平等の現状を測るためのツールです。
| 企業 | 全労働者 | 正規雇用 | プロファイル |
|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 62.9% | 64.3% | 3指標最高水準・開示姿勢が積極的 |
| カプコン | 63.4% | 82.8% | 正規ベース最高・技術職フラット |
| 伊藤忠商事 | 58.4% | 59.2% | 同職位約97%・施策充実 |
| キーエンス | 41.8% | 42.2% | 最大格差だが非正規ベースは逆転構造 |
「この会社は本当に女性が活躍できる組織か」──その答えは、賃金格差の絶対値ではなく、格差の構造要因と改善方向性の組み合わせで読み解けます。
なお、男女の賃金の差異は企業ごとに計算対象範囲が異なる場合があります。標準的な開示は提出会社(単体)ベースで、連結ベースでは数値が変わる可能性があります。また、同職位比較のような踏み込んだ数値は有報の構造化開示には含まれないことが多く、企業のIR資料や統合レポート、面接での質問で補完するのが本筋です。
この記事のポイント
- 全労働者ベースの格差は40-63%でも、伊藤忠の同職位比較約97%が示すように、主因は「同一労働の不平等」ではなく「管理職比率・職種構成の偏り」である
- 格差の絶対値より、改善の方向性と施策の具体性(KPI開示・具体施策・男性育休義務化)が就活時の企業評価の決め手になる
- 3指標セット(賃金格差・女性管理職比率・男性育休取得率)で見ると、企業の真の人的資本姿勢が立体的に見えてくる
次のアクション
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